新型コロナ政策で浮き彫りとなったマイナンバー制度の欠陥、行政手続きにこそサービス思考を(3)

システム仕様上、2年間で5000万枚交付は不可能

制度設計の欠陥だけでなく、マイナンバーのシステムにもネックが存在することが明らかになった。流行り言葉に直すと「目詰まり」だ。パスワードの確認、変更、新規交付手続きが集中したため、システムの遅延や異常停止といったトラブルが発生し、窓口処理ができなくなった。

市区町村によってトラブルの状況が異なるのだが、これまでに判明しているのは5月7日、8日、11日の計3日だ。システムダウンは2019年の11月にも、更新手続きが集中したことが原因で発生している。思い出すのは、制度がスタートした直後の2016年3月、1カ月にわたってシステムトラブルが断続的に発生したことだ。その原因は解決したはずではなかったか。

総務省が2019年12月20日に公表したマイナンバーカード交付枚数のロードマップ「マイナンバーカードの普及等の取組について」によると、以下のように記されている(表3)。

①2020年7月末「マイナンバーカードを活用した 消費活性化策に向けて」3000万~4000万枚
②20201年3月末「健康保険証利用の運用開始時」6000万~7000万枚
③2022年3月末「医療機関等のシステム改修概成見込み時」9000万~1億枚

表3:マイナンバーカードの交付枚数(想定)(出典:首相官邸マイナンバーカードの普及等の取組について」)
拡大画像表示

2020年4月1日現在が2033万枚余なので、7か月末までに1000万~2000万枚、2021年3月末までに4000万~5000万枚を新規に交付するという。しかしこれまでの実績では、1カ月50万枚を交付するのが精一杯だ。この状態がリニアに続いたとして、2021年4月時点で3000万枚を達成するのはかなり難しい。

そこで総務省は2020年9月から、キャッシュレス決済連動のマイナポイント(25%のプレミアム率)で交付枚数を加速する計画だった。このために「交付事務費助成金」として2020年度610億円、マイナポイントに2478億円の予算を計上しているのだが、2020年東京オリンピックパラリンピックが1年延期になったため、コロナ騒動がひと段落したあと、計画は見直しが必至となっている。

ただ、今回のシステムダウンは、中間サーバーのキャパシティ不足が改善されていないことを図らずも露呈してしまった。行政機関のIT関係者は「逆立ちしてもロードマップ達成は不可能」と口をそろえる。

システムもさることながら、まずは法の運用と制度設計を

期待に反して散々なマイナンバー/マイナンバーカードだが、システムのキャパシティ不足はハードウェアや通信回線の増強で解決できるだろう(ソフトウェアに潜在的なバグがない限りだが)。最大の問題は法律(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律:通称「マイナンバー法」)の運用と、適用する制度の設計だ。

特別定額給付金の準備段階では、「e-Tax確定申告者のデータを使えないか」という案があった。預貯金口座が登録されているからだ。個人事業主や中小企業への持続化給付金も、確定申告のデータを使えばマイナンバー連動が可能になる。

ところがマイナンバー法では、その適用は税・年金・自然災害の領域に限られている。今回のCOVID-19は疫病であって、適用対象外と判断されたため、e-Taxのデータが利活用できなかった。

「緊急事態」と威勢のよい宣言を出しながら、無謬原則に立つ平時の法律運用と現場を無視した制度設計──ITを云々する以前に、行政手続きにこそサービス思考を取り込むことが必要になってくる。そして何よりも重要なのは、緊急事態に、速やかで適切な対応をするための豪胆な決断ができる人材がいるかどうかということだ。

新型コロナ政策で浮き彫りとなったマイナンバー制度の欠陥、行政手続きにこそサービス思考を(1)に戻る→ https://itkisyakaiessay.hatenablog.jp/entry/2020/06/01/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E6%94%BF%E7%AD%96%E3%81%A7%E6%B5%AE%E3%81%8D%E5%BD%AB%E3%82%8A%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%90