あえて異論:トラブル続出のマイナンバーだけど

経済記者シニアの会」に掲載したコラムです。掲載は2023年6月26日、4か月経過しているので全文を転載します。本編は下記(☟)をクリックしてください。

あえて異論:トラブル続出のマイナンバーだけど

 5月29日付コラム「出てきたのは別人情報/使えません・どうするマイナ」の“落としどころ”は
 (1)マイナンバーカードはマイナンバーを確認するためのツール
 (2)マイナンバーは納税と各種行政手続きの申請ツール
 (3)行政窓口はマイナンバーと台帳を付き合わせるアナログ
 でいいじゃないか、でした。

 そのコラムを書いたあと、某NPOの理事就任にかかる手続きに必要ということで、市役所支所に住民票の写しを取りに行きました。(本来ならマイナンバーがあれば住民票の写しは不要:カード券面のコピーで済むはずなのに)

 カミさんに「何たってマイナンバーカードがあるからね、ちょちょいのちょいだよ」 と言って家を出たのですが、職員の人は「申請書を窓口に出してください」 と言うじゃありませんか。

書類申請というアナログのほうが安心・安全

 「なぜ?」と尋ねると、「交付機が設置されていないんですよ」とのこと。「ここから歩いて2〜3分のコンビニにありますよ」

 いや、わたしは自動発行機を使いたいのでもないし、コンビニに行きたいのでもありません。住民票の写しがほしいだけなので、申請書に必要事項を記入して窓口に出したわけですが、これってどうなの? でありました。コンビニではマイナンバーカードで住民票の写しが交付されるのに、市役所(支所ですが)では書類で申請しなければならないって、おかしいでしょう。

 筆者が居住している市は富士通Japanのシステムを使っているらしいので、コンビニの交付機を使っていたら別人の住民票の写しが出力されていたかもしれません。とすると、滅多にない絶好のネタを逃したことになるのか、書類という前時代のアナログ手続きのほうが安心・安全だよね、ということになるのか、何とも微妙です。

バカを排除する仕掛けを用意しなかった責任

 政府の撒き餌=2万円相当のマイナポイントに引き寄せられ、この1年間で3200万人超がマイナンバーカードをゲット、4000万人超が申請しています。ゼロ金利・物価高の折から2万円相当のマイナポイントは魅力ですから、自分だけでなく意思表示ができない乳幼児にも高齢者にも、と申請に走ったのは無理からぬところでしょう。

 マイナンバーと健康保険証、金融口座のひも付けは、さすがに乳幼児は自分でできません。パソコンやスマートフォンの操作に不慣れ、ないし自分で解決することを諦めている高齢者に「ご自分で」を強いるのは人道に反します。

 そこで自治体はマイナンバー窓口にアルバイトのサポーターを配置して、ひも付け作業を手伝った。あるいは民間事業者の健康保険組合が組合員のひも付け作業を一括して代行した。第三者マイナンバー情報に関与することが、マイナンバー法行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)に照らしてどうなのか

 そのことはとりあえず措くとして、個人を特定(同定)する基本4情報(氏名、生年月日、性別、住所)を着実に確認していたら、別人の健康保険情報や金融口座がひも付けられることはほとんどなかったでしょう。過度なアクセス集中、代行入力した職員のデータ生成技能がヒューマン・エラーの事由ですが、その裏には制度とシステムの設計エラーが潜んでいます。

 人は必ずミスをする→何ごとにつけヒューマン・エラーは付いて回る→だから仕方がない――で済ませていたら、エラーはなくなりません。政府(内閣、デジタル庁、総務省厚労省など)は「ヒューマン・エラー」に帰結させたいようですが、「フール・プルーフ」(Fool Proof:バカを排除する仕掛け)を用意していなかった責任があるのは言うまでもありません。そのことは別の場所で記事を載せたところです。

艱難辛苦・波濤万里を越えて不退転の覚悟で

 Webサイトにログインするとき、事前に登録してあったスマホに届く認証番号を入れさせたり、本人しか知らないこと(母親の旧姓とか小学校時代の親友とか好きなミュージシャンetc)を記入させるのは成りすまし排除策ですし、「信号機の写真を選べ」とかイメージ化された数字・アルファベットを入れさせるのはロボット排除策です。成りすましやロボットを排除するのも、フール・プルーフの考え方にほかなりません。

 住民基本台帳ネットワーク・システム:略称「住基ネット」から20年、「マイナンバー」に衣替えして足掛け9年、国民の約8割が保有するまでにマイナンバーカードは普及し、約2400の行政事務にマイナンバーが利用されるようになっています。カード返上だ、システム廃止だ、個人情報漏洩がこわい、マイナ保険証は生命のリスク、カード取得を義務化するのか等々、アンチの嵐のなか、あえて異論を申し上げると、「20年かけてここまできたのをフイにするのはもったいない」ということです。

 それに誤情報のひも付けは、健康保険証が約7300件で、全体の0.01%に過ぎません。間違えられた個人にとっては大問題ですが、「最大多数の利便性」を優先するなら無視・許容の範囲でしょう。間違いが見つかったら、その都度ちゃんと直せばいい。最初から「完璧」を求めていたら何もできないということです。

 自分が自分であることを証明する仕組みとして、ちゃんと使えればそれでいい。それ以上の機能を求めるから、あちこちに無理が生じるのです。とりあえず「今のまま」を安定的に運用できるようにし、数年後にピークがやってくる電子証明書と健康保険情報の更新を無事に乗り越えることに集中したほうがいいと思います。

 これまでにかかった費用を考えるとちょっと呆れ果てますし、結局は数年以内にカード仕様を変えるのに合わせてこっそりシステムそのものを作り直すはず。つまり、あれやこれやで1兆円ほど用意して、周回遅れの国内ITベンダー、SIerを救済することになるでしょう。

 政府は今国会で、「デジタル化」を進めるため、来年秋に紙の健康保険証を廃止する法律を作りました。艱難辛苦・波濤万里を越えて一気に利用範囲を広げる不退転の覚悟を示したと理解していいのですが、その前に、市役所でマイナンバーカードを使えるようにしてくれませんか。