「電子政府」なのに書類添付が必要な行政手続きが48億件もあるって知ってましたか(2)

まず書類添付の規定を見直すことから

住基カードに続いてマイナンバーカードも"笛吹けど踊らず"で、交付枚数が伸び悩んでいる。総務省は多目的利用を普及の切り札にしようと力を入れているが、制度がスタートしたときからかけ違ったボタンが、いまだにかけ違ったままなのだ。

国民にマイナンバーが通知された当初、「番号は誰にも教えないように」「通知書やマイナンバーカードは持ち歩かないように」と秘匿を強調していたのに、今度は「持ち歩いてあちこちで使ってください」というのは国民一般に混乱を生む。マイナンバーとマイナンバーカードを区別して理解している人は決して多くないためだ。

また、例えば確定申告のとき、マイナンバーを記入したうえにマイナンバーを証明する書類(マイナンバーカードかマイナンバー通知カードのコピー)を添付させるのは愚の骨頂といっていい。先に発覚した日本年金機構のデータ入力にかかわる不祥事でも、年金受給者の扶養家族の情報を追加・修正するのが目的だったのだから、年金番号マイナンバーをヒモ付けするだけでよかったはずではなかったか。

カード交付枚数ではなく利用の広さと簡易性

ここで筆者が強調したいのは、マイナンバー制度で重要なのはカードの交付枚数ではなく、様々な行政手続きをネットで簡単にできるようにする(役所に出向かなくていい)ことだ。

そのとき申請者が当該本人であることを認証するのがマイナンバーであるはずだ。せっかくスタートしたマイナンバーを活かすのが電子政府の本筋とすれば、手続きの電子化を阻害している書類添付の規定を見直せばいい。

「行政手続等の棚卸結果」でもう一つ明らかになっているのは、申請時に書類を添付する規定の数だ。ここでいう書類とは、住民票、戸籍、商業法人・不動産の登記事項証明書、印鑑登録証明書、所得・納税証明書、定款、決算書、各種の資格証明書などを指す。

調査によると、申請時に書類を添付するよう規定している法律は、累計で717本だ。個人の手続き申請で住民票の添付を求める法律が33本、戸籍は16本、印鑑証明書が2本、法人の場合は定款が255本、決算書が209本、各種の資格証明書が122本、登記事項証明書が61本という具合だ。

ところが法律以外にも書類添付を規定する定めがある。政省令・規則、通達・ガイドラインなどだ。政省令・規則は5,420本と法律の約7.5倍、通達・ガイドライン・その他は3.5倍の2,523本となっている。実務を運営しているうちに、法律を補うためであったり「念のため」に書類の添付を求める規定が現場ごとに作られ、見直されないまま現在にいたっているということだ。戦国時代の小田原北条氏で、初代・早雲(伊勢新九郎長氏)のころの定めは二十一箇条だったのが、五代・氏直のときには二百箇条以上になっていた、という話とよく似ている。

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さらに地方公共団体が独自に定めている条例があって、つまり「官僚の無謬」を原則とするこの国の行政手続きは、申請者に自らを証明する書類を添付して申請するよう、ガンジガラメになっている。国民もガンジガラメだが、役人もガンジガラメだ。この縛りから行政手続きを解放しない限り、電子政府・電子行政は実現しない。書類添付の規定を省くのが手っ取り早い。 

資格は書類でなく本人に付随する

もう一つは、各種の資格は証明書に付随するものではない、という認識を確立することだ。自動車の運転免許証は運転する技量と知識を証明するものではあるけれども、その技量と知識は当該個人に付随している。

医師、看護師、弁護士、会計士、クレーン操作や危険物取扱の資格なども同様だ。とすれば、例えば交通警官が自動車運転免許証の提示を求めるとき、マイナンバーをもとにネットで有資格者かどうかを検索すればいい。免許証不携帯で罰則という規定そのものがおかしいのではないか。

押印した書類や領収書を手にすると安心、証明書を確認すると納得という長年の習わしは、元号と同じように、「今日の明日」で廃絶できるものではない。制度で心理や感情は縛れない。運転免許証や医師資格証は、卒業証書や銀行の通帳と同じく、記念品やアイデンティティとして残せばいい。だが電子政府・電子行政では無用の遺物だ。

20世紀をひきずる「IT」は、21世紀の「デジタル」に変容しつつある。そのように頭を切り替えなければ、現行の電子政府は必ず数年内に行き詰まる。