「電子政府」なのに書類添付が必要な行政手続きが48億件もあるって知ってましたか(1)

2018年5月に書いた記事の再掲です

ネット処理は手続き全体の13%、総件数の6割

内閣官房IT総合戦略室と総務省が「行政手続等の棚卸結果」を公表したのは2018年3月末だった。かなり前のことなので、我ながら「遅きに失した」の感は否めない。また、調査統計の紹介が本稿の半分以上を占めるので数字が羅列され、「読む記事」としてはたぶん面白くないだろう(と予防線を張っておく)。

で、資料によると2018年8月末現在で23府省が所管する行政手続きは4万6,385種類、1年間に行われた手続きの総数は約48.3億件だった。そのうち法令でオンライン処理可とされている手続きは5,944種類(12.8%)で、28億件(58.0%)がオンラインで処理されたという(電子政府システムはインターネットの利用を前提にしているので、「オンライン」の用語がそぐわない。そこで本稿では以下「ネット」と表記する)。

ネット化率について報告書は「手続き種類数ベースで13%、件数ベースで73%」とする。手続き種類数ベースは少数点以下を四捨五入すれば13%になるのだが、ネット処理率には目眩ましが潜んでいる。報告書がいう「件数ベース」の母数とは、ネット処理が可とされている5,944手続きで処理された35.3億件を指す。

つまり73%という数字は35.3億件に占めるネット処理の構成比であって、その実数を逆算すると25.8億件となって、総数を2億件以上下回る。2億件超がどこに消えてしまったのか、報告書は明らかにしていない。いずれにせよ、全体48.3億件に占めるネット処理の割合は58.4%ないし58.0%というのが正しい。 

経済効率で見れば580の手続きで十分

4万6,385手続きのうち、法令でネット対応が禁じられているのは3,169種類だ。可否が判然としない73手続きを除いて、残る4万3,143手続きが法令でネット化が可能となっている。そのうちネット化実施5,944手続きの構成比は13.8%なので、これだけ見ると「行政手続きのネット化はほとんど進んでいない」と判断を誤ってしまう。

行政手続きのネット処理については、「行政手続のオンライン利用の範囲の判断に係る実施要領」(内閣官房IT担当室/総務省、2011年8月)が、当該手続きを紙ベースで処理する諸経費と、ネット化する場合のシステム構築・運用費を1件当たりで比較検討するよう求めている。

年間申請が40件以下の手続きが約2万種類もあって、これを強いてネット化するのは論外だ。システム構築費、運用費だけでなく、紙とネットのダブルスタンダードが、行政の現場に混乱が生みかねない。「念のため」「慣例だから」といった理由で続いている手続きを廃止することも考えなければならない。

経済効率で見ればネット化がふさわしい手続きは年100万件以上の179種類、10万件以上の401件の計580種類、約1割に絞られる。ネット化されている5,944手続きの中には、経済効率より国民の利便性を重視しているケースもあるだろうが、大半は「勢い」「成り行き」でシステムを作ってしまった可能性が高いと思われる。猫も杓子も電子申請、ネット処理ではなく、適正を評価して見直す必要がありそうだ。 

f:id:itkisyakai:20180516065516p:plain

「利用が広がっている」という目眩まし

経済効率の観点からネット化の有意性が認められる580手続きについて、手続きの申請・申告と受領・処理の関係を見ると、

 ●行政機関→行政機関(中央府省、地方公共団体、外郭機関):46/7.9%

 ●民→官(個人・法人→中央府省):262/45.2%

 ●官→民:81/8.8%

 ●民→地方地方公共団体):102/17.6%

 ●地→民:40/6.9%

 ●民→民:28/4.8%

だった。

「民→官」「民→地」を合わせると346手続きで62.8%となる。

 このうち「改善促進手続き」に指定されている58手続きのネット処理率を見ると、「登記」にかかる5手続き(不動産登記、法人登記など)は2億2,026万件のうち1億5,072万件(68.4%、前年度比2.2ポイント増)、「国税」(所得税申告、給与所得源泉徴収票、不動産売買等の手数料など)にかかる15手続きは3,245万件のうち1,956万件(60.1%、1.9ポイント増)、「社会保険・労働保険」にかかる32手続きは1億5,886万件のうち1,876万件(11.8%、2.8ポイント増)などとなっている。年金にかかる諸手続きのネット処理率が極端に低い。

ただ整合性を疑ってしまうのは、「国税」における「所得税申告」すなわち個人の確定申告だ。申請1,855万件のうち992万件、53.5%がネット処理されているというのだが、e-Taxシステムで電子的に確定申告を完了するにはマイナンバーカードが必須となる。

マイナンバーカードは昨年末時点で交付枚数がようやく1千万枚に達した状況であることを考えると、この数字にはネットを利用して申請書類を作成した人がかなり含まれている。一事が万事と決めつけるわけではないが、冒頭で触れた「ネット処理率は件数ベースで73%」という公式発表に見るように、電子政府の普及度合いを高く見せようとする目眩ましが織り込まれている。

別の言い方をすると、申請・申告はネットでできるけれど、実際の手続きには紙の書類を提出しなければならないケースが少なくない(というか大半)ということになりはすまいか。個人であれ法人であれ、本人確認が電子的に認証され、住民票や領収書などを添付する必要なく、ネットで電子的に(役所に行かず、署名・捺印をせず)手続きが完了することはほとんどない。 
itkisyakaiessay.hatenablog.jp