デジタル・ガバメント集中投資の行方─ポスト安倍/ポストコロナのIT政策はどう動くか(2)

 デジタル・ガバメントは、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(2017年5月閣議決定)の重点分野の1つとして掲げられた。その推進方針には、「本格的に国民・事業者の利便性向上に重点を置き、行政の在り方そのものをデジタル前提で見直すデジタル・ガバメントの実現を目指す」とある。

 次世代型行政サービス、DX、制度・慣行の見直しが意味するのは、まさに安倍首相が強調した「行政サービスのデジタル化=デジタル・ガバメント」にほかならない。その具体的なイメージは、2018年1月の「eガバメント閣僚会議」で示されており、それが同年10月に成立した「デジタル手続法」(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律、2019年1月施行)というわけだ(図2)。

 

図2:デジタル・ガバメント実行計画の全体図(出典:政府CIOポータル 「デジタル・ガバメント実行計画 eガバメント閣僚会議決定2018年1月16日初版)

 より詳細に見ると、添付書類の撤廃と押印の任意化、オンライン化の徹底、本人確認手法の見直し、行政事務のBPR、複数手続きのワンストップ処理(ワンストップ/ワンスオンリー)が挙げられ、技術的手法としてオープンデータを前提としたサービスデザインの採用、語彙や文字コード、データフォーマットの標準仕様、デジタルプラットフォームの形成が指摘されている。

 

行政手続きのオンライン比率向上が急務

 2019年3月に内閣官房IT総合戦略室と総務省が公表した「行政手続等の棚卸結果」(表1)によると、2018年8月末現在で23府省が所管する行政手続きは約4万6000種、このうち最初から最後までオンラインで完結する手続きは13%にとどまる。

表1:行政手続き等の棚卸結果(出典:内閣官房IT総合戦略室、総務省の資料より作成)

 これに対して政府は、1年間に行われた手続き総件数は約48億件、このうち約6割の28億件がオンラインで処理されたとアピールしている。数字を聞くかぎりでは電子行政はかなり進んでいることになるのだが、マイナンバーカードを使わないe-Taxのように、ネットで作成した確定申告書類をプリントアウトして郵送という目眩ましも含んでいる。

 とはいえ、年間申請が10万件以上の手続き580種がすべてネット完結型になれば、オンライン処理比率は99%を上回るという試算もある。仕組みや手続きの意味と必要性を吟味し、「手続きの数が多く煩雑で日数がかかる」というマイナス評価を急務で返上しなければならない。

 ポイントは当然、ハンコだけではない。現状、個人の場合は住民票や戸籍謄・抄本、印鑑証明など各種の公的証明書、法人の場合は登記簿や定款、決算書類などを添付しなければならない。しかも必須でなく、「念のため」であることが少なくない。窓口職員が責任回避のために、「何かあったら困るから」「確認のために」の慣例をどう打破するかだ。

 「e-Japan基本戦略」からマイナンバー制度までは、1960年代に本格化した電算化/情報化の延長線上にあった。既存の紙(アナログ)ベースの手続きをコンピュータに置き換えただけだから、処理速度が向上したが、「窓口まで行って申請」「意思を確認するために押印」「証明書は申請者が持参して添付」という基本は何も変わっていない。マイナンバーのシステム的欠陥をあげつらったところで、デジタル・ガバメントは1ミリも前に進まない。