行政手続きの紙とハンコ 結局のところ「撤廃」は掛け声倒れ?

安倍首相は4月27日、経済財政諮問会議で「デジタル化に向けた法制度や慣習の見直し」を指示した。今回のCOVID-19感染拡大防止策として企業に実施を訴えたテレワークで、「ハンコを押すために事務所にいかなければならない」という実情が判明したためだという。

印影のデジタル化ーー問題はソコじゃない

ネットで印鑑やゴム印を製造・販売しているはんこ堂ドットコム(運営会社は岐阜市に本社を置くリンシュンドウ)がすかさず、「印影プレビュー作成ツールを無料公開」をアピールしたのは民間企業の逞しさ、抜け目のなさ、大勢に流されない意気やよしだが、しかし問題はソコじゃない。

竹本直一IT担当大臣は科学技術担当大臣を兼ね、一方で日本の印章制度・文化を守る議員連盟いわゆるハンコ議連の会長でもある。アクセルとブレーキを背負って二律背反に苛まれたのか、ついに「ハンコ議連の会長は辞めてもいい」と言い出した。

そのような立場の人にIT担当大臣を任命すること自体がITを理解していない、軽視している証拠のようなもので、安倍クンがどんなに「デジタル化」と言ってもIT側の人間はせせら笑うだけだろう。どうせ口だけに決まっている。

添付書類をワンセットでなくさないと

その証拠に緊急経済対策に盛り込まれた新型コロナウイルス対策にかかわる主要な給付金・助成金13種の申請手続き=下表=を見ると、押印が不要なのは「子育て世帯への論じ特別給付」(内閣具府)と「持続化給付金」(経済産業省)のみだ。「子育て世帯への臨時特別給付」はもともと手続きが不要なので、今時の措置で押印が不要なのは「持続化給付金」のみとなる。

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同給付金は添付書類も確定申告書類・事業収入帳簿・本人確認書類(個人事業者)の電子ファイルを提出すればいいので、完全にネットで完了する。 ところが残りの11種を見ると、「押印が必要」は9種、「押印または署名」が2種となっている。

添付書類が電子ファイルで可なのは「国税の納税猶予」(財務省)、「地方税の納入猶予」(総務省)、「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」(内閣府)の3種だけで、本チャンの手続きが郵送で済むかどうかは別として、あとはすべて窓口でなんらかの書類の交付を受けなければならない。窓口で対面型の申請処理となると、受け付ける担当者の健康管理、感染予防策も気になってくる。

緊急事態宣言でも平時の無謬原則

緊急事態宣言を出したところで「ここ1~2週間が山場」「注意深く観察」が続き、外出自粛と飲食業やカラオケ、ゲームセンター、パチンコ店などの営業自粛は「要請」にとどまっている。いったい何が緊急事態なのか、宣言で何が変わるのかと思うのは、緊急事態にもかかわらず、役人は相変わらず「無謬原則」に固執し、国会議員は手続きを審議せず、内閣は役人に丸投げという20世紀型行政モデルを維持しているからだ。

ここで話題にしているハンコを「ナシ」にして、書類も紙じゃなく電子データでいい、今どきのビジネスマンがパソコン、ネットを使えないはずはないのだし、日本人の良識・常識・民度を測る社会実験のいい機会じゃないか、というぐらいおおように構えれば、「イヨッさすが内閣総理大臣!」と大向こうを唸らせることもできるだろう。

いやハンコがすべて要らないといっているのではない。日本画や書には落款が付きものだし、認定証や表彰状に朱肉の角印がないと引き締まらない。かく言う筆者も亡き父から受け継いだ蔵書印を使っているし、ハンコの文化があることを否定はしない。文化としての印章を大事にする向きはどうぞ存分に印章を鑑賞し、印影の研究に没頭していただいて構わない。

「撤廃」は期待しないほうがいい

ただどんなに精巧な印章でも3Dプリンターで容易に模造でき、大量印刷の印影をありがたがるのも不思議なことといわなければならない。まして事務処理や事案の回覧につき「確認」したアリバイを残すための押印、行政手続きにおける事務担当者の無謬原則、責任回避を担保するための押印であれば、電子印鑑でも構わないし電子IDでも構わない。

どうせならQRコードをそのまま電子印鑑にすれば、URLともリンクできてメリットは大きいだろう。 そのように考えると「ハンコが必要」と考えるのは、長年の習慣、慣例の呪縛に過ぎないことが分かってくる。

キャシュレスで現金信仰が薄まったように、COVID-19でハンコ信仰が見直されれば一歩前進だ。陽性反応者数が減って緊急事態宣言が解除されたら元の木阿弥、喉元過ぎれば何とやらに落ち着くのがこの国の常態。「撤廃」というような勇ましい事態を期待しないほうが精神的によろしいと思うのだ。

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