テレワークは進むが電子政府は一歩後退ーー新型コロナが浮き彫りにする日本のIT事情(4)

こういうときこそ行政のネット手続きだが

述べてきたように、民間では在宅勤務/テレワークが採用され、Web会議やウェビナーの利用が広がっている。これに対して行政、公共領域はあまり進んでいないのが実情だ。税金で賄われている行政、警察、消防、防衛といった公的機関、社会・経済を担っているエネルギー、運輸・通信、金融、医療といったインフラ系機関である。

行政における手続きを対面の窓口処理だけでなく、ネットを使って自宅のPCやスマートフォンからもできるようにする「電子行政」は、今回のような状況でますます重要な意味を持つ。行政手続きにおける押印の省略は印鑑・印章業界の猛反対で「省略してもいい」に落ち着いたが、「マイナポータル」を介した電子証明書が選ばれるに決まっている。添付書類情報の電磁記録化、手数料の電子納付で、24時間以内に会社登記が完了するからだ。

今回、筆者があらためて注目したのは、国税電子申告・納税システム「e-Tax」だ。マイナンバーカードとICカードリーダーが思うように普及しないため、国税庁は今回から、暫定的にID/パスワード方式を導入した(もう1つ、スマホマイナンバーカードを取り込んで確定申告を行う方法もあるが、ここでは割愛する)。

図2:e-Tax利用の簡便化の概要(出典:国税庁
拡大画像表示

図2にあるように、①マイナンバーカードを取得、②政務署で職員との対面で本人確認、③e-Tax開始届出書を提出、④その場でID/パスワードを入手、⑤自宅のPCでe-Taxを利用という手順だ。ICカードリーダーを購入する必要がないので、マイナンバーカードを取得する人が増え、e-Taxの利用が拡大する(だろう)というわけだ。マイナンバーカードの交付枚数を増やすことに何の意味があるのか、はさておき、e-Taxの利用を広げるのには有効な方法と考えられてきた。

ところが国税庁は、あろうことかあるまいことか、2020年2月27日に確定申告の期限を4月16日まで、1カ月延長すると発表したのだ。「新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から」(同庁)だという。

対面型の申請が終わるたびに消毒を行い、健康管理のため担当者の交代を早くする。それで窓口の処理件数が減るということなのだろうが、それなら「e-Taxをご利用ください」「税務署にはなるべく来ないでください」と案内すべきではないか。

これに関連して、もう1つおまけがある。電子申告用のID/パスワードは、どういうわけかマイナンバー取得が必須ではない。実際は運転免許証でもパスポートでも構わない。いつの間にかマイナンバーカード取得は必須要件でなくなっていたのである。国税庁マイナンバーカードの普及とe-Taxの利用にブレーキをかけてどうする、だ。

1回目は➡️ http://itkisyakaiessay.hatenablog.jp/entry/2020/04/04/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%81%AF%E9%80%B2%E3%82%80%E3%81%8C%E9%9B%BB%E5%AD%90%E6%94%BF%E5%BA%9C%E3%81%AF%E4%B8%80%E6%AD%A9%E5%BE%8C%E9%80%80%E2%94%80%E6%96%B0%E5%9E%8B