出てきたのは別人情報/使えません・どうするマイナ

経済記者シニアの会に掲載したコラムです。コメントは本編()に書き込んでいただけると嬉しく思います。

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 総務省のホームページによると、今年5月21日現在のマイナンバーカード申請数は累計で9,690万9,447件、全人口の77.0%とあります。交付済みは8,786万5,814枚で全人口の69.8%なので、17歳以下の「未成年」1,774万人を除くと、成人の9割超がカードを保有することになります。

 ところが

  1. 別人の住民票の写しが交付された
  2. 印鑑証明書でも同様の事案
  3. マイナンバーそのものが流出
  4. 別人の健康保険証がひも付けられていた
  5. 別人の金融口座がひも付けられていた

 等々のトラブル/不祥事が相次いでいます。

 成人の9割超が保有することになったのは、「便利だから」ではありません。2兆円を投じたマイナポイントの効果なのは周知の事実です。マイナンバーを健康保険情報ばかりでなく、将来は自動車運転資格とも連携させようとしていた矢先だけに、総務省やデジタル庁、自治体関係者にとっては

 「マイナンバーカードがあれば、住民票や印鑑証明書が要らなくなるんじゃなかったっけ?」

 という“そもそも論”が蒸し返されるのがいちばんイヤなところでしょう。

 大河ドラマ風にいうと「どうするマイナ」です。

システムは正しく間違う〜すべて運用する組織と人の問題


 総務省は「1、2、3は証明書交付システムの誤動作」と説明していますが、システムは「正しく間違う」のです。設定ミスないし設計ミスであることは明らかです。開発元の富士通ジャパンは国(総務省)が策定した仕様に従ってシステムを構築し、国はそれを検収したわけですから、最終的な責任が国にあることは言うまでもありません。

 4、5は健康保険証・金融口座をひも付けした際の誤入力のようです。入力した人の責任ということになるのですが、組合や市区町村の相談・支援窓口が代行して入力するケースが少なくありません。マイナンバーにかかるデータ処理を第三者に任せることは、個人情報保護法で厳しく制限されています。これも制度設計のミスないし法令の抜け穴ないし杜撰な運用ということができるでしょう。

 システムのせい、市区町村が設置した相談・支援窓口の人(アルバイトか派遣要員を含む)のせい、と言っている限り、マイナンバー/マイナンバーカードの誤動作・誤入力はなくなりません。誤入力をどう防ぐか、手立てが必要です。つまりすべては制度を運用する組織と人の問題なのです。

サービス提供のツールか「お上」に申請するためか


 韓国の国民番号制度を取材したのはかれこれ15年ほど前なので、現在も同じなのか自信はありませんが、当時、韓国では携帯電話を利用するにはまず口座がある銀行に行かなければなりません。国民番号票を提示し、銀行でSIMカードを作ってもらうのです。そのSIMがなければ携帯電話は使えません。SIMカードを作った時点で、口座情報と国民番号はひも付けられています。  

韓国の国民番号は「北」の潜入工作員をあぶり出し、戦争で国がなくなっても政府が国民に行政サービスを提供するためのツールという位置づけです。1950年に勃発し、もうちょっとで対馬海峡に落ちるところまで追い詰められた朝鮮戦争の苦い体験が国民番号制度を生み出しました。

 ですので、そもそも国民番号は住民票や納税者番号とリンクしています。しかも地域行政のITシステムはすべて標準化されています。例えば住民票交付システムの開発元は済州市で、それを国が買い上げて全国の市町村に配布していると聞きました。1997年のIMF管理に陥ったとき、IT/インターネットに活路を見出したのです。

 というわけで行政手続きはITでスムーズに行われます。

 加えて、
 ――自宅のプリンターで出力した住民情報を「住民票」として使うことができる。
 ――確定申告なんてしない。税務署から所得税の請求書が送られてくる。
 といった話を聞いて、「どひゃ~」となったことを覚えています。

視点を変えて、いつまでもアナログでいいんじゃないか


 日本の行政手続きの基本は、国民(住民)がお上に「申請」し、お上が「よろしい、差し許すであろう」です。また、地域行政、健康保険、税務、各種資格etcはそれぞれ個別の体系で発展してきました。それを無理に統合しようとするから、あちこちに歪みが生じます。

 すでにマイナンバーは全国民に付与されています。国の機関が所管する番号に架した屋上屋を解消し、同時にSuicaのシステムのように、毎秒何千何万ものアクセスに耐えうるデータベースCRUD技術でシステムを再構築するほかないように思います。国内ITベンダーの技量がかなり劣化しているとはいえ、5年間・総額1兆円もかければなんとかなると思うのですが。

 住基ネットからマイナンバーに転換する際の議論を思い出すと、国が一方的に割り振る番号ではなく、健康保険か運転免許証かパスポートか、国が発行した番号のどれかを選んでもらう、それを登録してもらうので「マイナンバー」と名付けたのでした。登録する際に金融口座を併記してもらうことになっていたように記憶しています。

 フタを開けたら全く違う制度に変わっていたのでたいへん驚いたのですが、いまさら言っても始まりません。マイナンバーカードはマイナンバーを確認するためのツール、マイナンバーは納税と各種行政手続きの申請ツール、行政窓口はマイナンバーと台帳を突き合わせるというのが落としどころ。いつまでもアナログでいいんじゃないでしょうか。