Trusted Web協議会の先生たちが触れなかったこと ウクライナの目玉焼きと正倉院戸籍(1)

 7月25日、Trusted Web 推進協議会(座長=村井純慶應大学教授)の第5回会合で「Trusted Webホワイトペーパーver.2.0」が承認されました。これを受けてデジタル庁とNTTデータ経営研究所は、「Trusted Web の実現に向けたユースケース実証事業」の公募をスタートさせています(図1)。

図1 Trusted Webユースケース実証事業のスキーム

ベネフィットと適用領域を明示

 Trusted Webの要件など詳細は「Trusted Web ホワイトペーパー ver2.0」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/trusted_web/index.html)、ユースケース実証事業の公募案内はNTTデータ経営研究所ホームページ「お知らせ」(https://www.nttdata-strategy.com/info/trusted_webR3_koubo.html)を参照してください。

 2020年10月にスタートしたTrusted Web協議会は、インターネット/Web経由で流通する情報(データ)の安心・安全・信頼にかかる課題の洗い出しに始まり、求められる精度や品質、それを実現するシステムの技術体系(アーキテクチャ)などについて検討を重ねてきました。今回の「ホワイトペーパーver.2.0」では、社会・経済へのベネフィット(効用、利益)や適用領域が明示されているのが特徴です(図2)。

 ユースケースの公募案内によると、対象はプロトタイプ・システムだけでなく、アイデア(要件定義書)もOKとなっています。土曜・日曜を除いた実質的な募集期間は2週間という短期決戦ですが、スタートアップの発掘・育成も視野に入れた意欲的な姿勢が見て取れます。

 委託数は8~12件、予算総額は2億円と小規模ですが、会合では委員から「小さく産んで大きく育てる」という言葉も聞かれました。どういう事業者(企業・団体)が選ばれるのかだけでなく、来年3月末に明らかとなる実証事業の成果に注目したいと思います。

図2 ホワイトペーパーver.2.0で示された事業者にとってのベネフィット

建付け上はデジタル庁の事業

 改めて「Trusted Webとは?」の確認から始めましょう。

 「Trusted Web」はインターネット/Web経由で流通・提供される情報(データ)の「確かさ(確からしさ)」を担保する仕掛けのことです。ネット経由で求人に応募する際、初対面の相手が本当にその人であることをどのように確認すればいいでしょうか。履歴書がどんなに立派でも、スキャンされた写真入り身分証明書が添付されていても、偽造かもしれません。

 東日本大震災熊本地震の直後、Twitterや匿名のSNSに「動物園からライオンが逃げた」「井戸に毒が投げ込まれた」といった投稿がありました。今回のウクライナ戦争では、「ディープフェイク」と呼ばれる技術で、ゼレンスキー大統領が兵士に投降を呼びかける捏造動画が流されました。

 こうしたフェイクニュースばかりでなく、なりすましによる詐欺やプライバシー情報の詐取を防止するのがTrusted Webが目的とする1つです。また身元の確かさが担保された情報(データ)を一定の要件で流通させることで、デジタル社会の利便性を高めようというねらいもあります。デジタル経済では「データこそ第4の産業資源」だからです。

 ちなみに産業資源の第1は自然界の木や藁と人、第2は化石燃料(石炭・石油)と燃料機関、第3は電力(風力、水力、地熱、太陽熱、火力、原子力)と移動機関とされています。筆者としては、半導体とソフトウェアを第4の産業資源としたいところですが、その判断は後世に任せましょう。

 Trusted Webのきっかけは、2019年1月にスイスで開かれたダボス会議世界経済フォーラム)で日本政府が提唱した「DFFT(Data Free Flow with Trust)」です。これを受けて2020年10月、内閣官房のデジタル市場競争本部に設置されたのが「Trusted Web推進協議会」(座長=村井純慶應義塾大学教授)です。

 2021年9月にデジタル庁が発足したことで、建て付け上、現在はデジタル庁の事業に編入されています。しかしDFFTが首相直結の案件だったので、協議会の事務局は現在も内閣官房が担っています。

 

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