メガ・プラットフォーマ対策でもある
協議会が想定する「Trusted Web」の仕組み(機能)は概ね次のようになっています(図3)。
①「トラスト・アンカー」と呼ばれる第三者機関・組織が情報(データ)の属性と識別子にリンクもしくは署名(VC:Verifiable Credentials)を付与する
②当該主体(個人・法人)が自分で自分自身の識別子(DID: Decentralized Identifiers)を生成する
③情報(データ)の出し手と受け手は第三者機関が付与した属性と識別子を相互参照することで「確かさ」を確認できる
④情報(データ)の移転・流通に際して利用条件が明示され、当事者が当該情報(データ)の移転・流通について関知しコントロールできること
⑤情報(データ)の検証やトランザクション・プロセスの逐次記録が可能なこと
①はいわゆる「認証局」のことで、分かりやすい事例を挙げればマイナンバー制度における国・自治体の役割です。同じくマイナンバー制度を例にすると、当該者が役所の窓口で4つの暗証番号を設定します。公的個人認証、利用者証明用電子証明、住民基本台帳、券面事項入力補助の4つです。これが②のDICに相当します。
①と②を組み合わせると③が可能になり、マイナンバーで確定申告ができたり給付金が申請できたりするわけです。④と⑤はマイナポータルを想起すれば理解が早いでしょう。ただしマイナポータルはクレジットやキャッシュレスの利用明細のようにプッシュ型ではないので、今後の改善が待たれます。
なぜこのような仕組み、仕掛けが必要とされるかというと、前述したフェイクニュースやプライバシー侵害、情報(データ)詐取といった問題への対策だけではありません。その背景には、GAFA+M(Google、Amazon、farcebook、Apple+Microsoft)に代表されるメガ・プラットフォーマによる情報(データ)による情報(データ)の寡占と囲い込み、それに一定の歯止めをかける政治的なねらいが潜んでいます。デジタル課税と並ぶ対GAFA戦略でもあるわけです。
「確からしさ」の裏付けがあればいい
もう一つは情報(データ)の「確かさ」を担保するために社会や産業界が負担するコストです。
完全な「確かさ」のためにはブロックチェーン技術が有用かもしれませんが、一過性の情報(データ)にまで適用するとたいへんな手間とコストがかかってしまいます。経済価値にかかわる資産(暗号資産やデジタル絵画、デジタル著作権など)を除くと、実社会ではトラスト・アンカーによるお墨付き(VC)や自分で生成したCIDによる「確からしさ」で済むケースが圧倒的なのです。
図4「検証可能域の相違」はたいへん分かりやすいと思います。青と黄色でできているので、ここでは便宜上、「ウクライナの目玉焼き」と呼ぶことにします。
左の青が大きな部分を占めている円が現在のインターネット/Webの状態です。情報(データ)の出し手が著名な企業や学識経験者、公共機関や教育機関なら一定の信頼性がありますが、「騙り」が混在することが少なくありません。事実、大手通販サイトやクレジット会社を名乗った詐取メールが頻繁に届いています。
なおかつ左の「現状」図では、会話や打ち合わせ、買い物、問い合わせ、さらには誰と誰が今どこにいるか、どのように移動したかまで、多種多様な情報がメガ・プラットフォーマーに集約されつつあります。その情報がどのように加工され、どこに転売されているか、利用者は知る由もありません。
対して中央の黄色の部分が大きな円は、暗号通貨やデジタル絵画。デジタル著作物に用いられるブロックチェーン、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)の世界を示しています。唯一性・真一性が絶対的に担保されることで経済価値が発生する世界です。出発点に遡って検証可能な世界と言い換えていいと思います。
一番右の円が現実社会に近いでしょう。信頼を裏付けるために氏名、住所、性別、年齢、卒業校、卒業年、職歴、資格などは検証可能な状態にしますが、年収や家族構成、病歴、思想・信条などはその対象ではありません。
政治家の場合はどうなのか、企業経営者ならどこまで公開すべきか等々、社会的な立ち位置や相手との関係で変動します。聞きなれない言葉ですが、「変更容易性」が重視されるのはそのためです。
そこで協議会のプレゼン資料では、次のような領域をユースケースとして想定しています(図5)。
①相互に信頼関係ができていない者同士のデータのやりとり
②確認コストの高い分野・紙等での検証が大量に発生している分野
③個人(法人)によるコントロールのニーズが高い分野
④大量のIDやデータを持っていながら、さらなる活用が考えられる分野
なるほど、ではあります。