「DXレポート2」に書かれなかったこと─経産省の真意を深読みする 情報産業からデジタル産業に軸足を転換、その過程で浮き彫りになる3つの課題(3)

「デジタル産業」の形成で多重下請け構造から脱却

 より難題なのは、(2)IT産業の多重下請け構造だろう。所管する商務情報政策局の情報産業課(ソフトウェア・情報サービス戦略室)は2021年2月4日に「デジタル産業の創出に向けた研究会」を立ち上げ、かねてからの課題に取り組むことになる。

 こう書くと、「多重下請け構造是正へ」の見出しが踊りそうだが、研究会がどのような方向を目指すのか、現時点では不明というほかない。わかっているのは、旧来の「ユーザーとベンダー」という2軸構造の発想ではなく、ITの利用者でありサービスベンダーでもある(その逆もあり)「デジタル産業」の形成を目指すということだ。

 2軸構造からの発想転換は、ディスカッションペーパーに記されているデカップリングとリバンドリングの考え方に基づいている。ユーザー、ベンダーという立位置・役割(機能)とIT利活用を切り離して再構成すると、DXに準拠したサービスモデルが創出されるという考え方なのではあるまいか。

 すでに実施されている事例を挙げると、最も分かりが早いのはアマゾン・ドットコムのビジネスモデルだ。ネット通販の顔と、クラウドサービスベンダーの顔を持っている。また、いわゆるネット系のITサービス会社の少なからずは、当初からITサービス業だったわけではない。例を挙げると、以下が当てはまるだろう。

中小企業の例
●金属部品メーカーがネットで他社製品を併せて一括受注しているうちに金属部品の総合卸売サービスに転換
●個人事業者としてスタートしたウーバー型宅配クリーニング業のシステムがクラウドサービスとして共有され全国にフランチャイズ展開
●コンシューマー向け装飾品販売店が独自の通販サイトを大手通販会社にライセンス提供しITサービス業として認知

大手製造業の例
●生産拠点がダイレクトに受注・出荷することで本社営業部門を中抜きに
●現場の従業員が生産プロセスを解析して生産性を飛躍的に高めることに成功した生産管理システムを競合他社に販売
●鉄鋼メーカーが大型トレーラーの荷台を保有し運送会社は運転手と牽引車両を提供

 「デジタル産業」の形成に施策を方向転換したからといって、もちろん、ただちにIT産業の多重下請け構造に影響を及ぶとは考えにくい。ここで言えることは、経産省はIT産業の個社をデジタル産業化する方策を講じる(かもしれない)ということだ。

 関係しそうな過去の施策を拾うと、汎用プログラム委託開発事業、中小企業向けの共通アプリケーション基盤普及促進事業などが思い当たる。また、経産省の2021年度税制大綱で明らかになっているDX投資促進税制(図5)も有用であるに違いない。

図5:DX投資促進税制のスキーム(出典:経済産業省「令和3年度 経済産業関係税制改正について」)

IT部門が社内下請けではDXを語ることすらできない

 DXレポート2やディスカッションペーパーが書けなかったことの最後は、(3)ユーザー企業におけるIT部門の立ち位置だ。3次請けクラスの中小ソフト会社ヒアリングすると、コロナ禍でも旧来型のシステム開発案件は極端に低迷していないという。企業のIT投資が大きく落ち込んでいないという調査結果もある。

 どういうことか考えると、システム開発案件を発注する企業IT部門が、現場から上がってくるIT化要求の取りまとめとシステム運用の窓口になっていて、DX化を推進する役割を果たしていない(そのような役割を与えられていない)のではなかろうか。かつて、IT部門が情報システムのお守り役で社内下請けであったために、OA(オフィスオートメーション)化やインターネット対応の舞台に乗れなかったことを思い出す。それが現在も変わっていないのなら、DX推進の道は遠い。

 併せて指摘しなければならないのは、経営層や管理職にある人々のデジタル思考力というものだ。DXレポート2では「DX推進体制の整備」で「関係者間の共通理解の形成」を指摘しているのだが、その前提ができていなければ共通理解もへったくれもない。前提となるのは4K(慣習・経験・勘・神頼み)から、エビデンス重視の経営判断への転換だ。

 エビデンスとは客観的、科学的な根拠であって、すなわち厳密なデータ分析にほかならない。4Kから脱けきれない経営者、管理者がどんなに「デジタル化」を口にしても、デジタルが真価を発揮するのは難しい。デジタル思考+デジタル志向の経営と組織運営、社内IT部門の自立(自律)性確保がDX推進の基盤となる。

 そのようにDXレポート2を眺めると、研究会の委員諸氏が書きたくても書けなかった本音がなんとなくわかってくる。それは「自社のビジネスなのだから、自分で考えて行動に移してみてはどうか」ということだ。

 「2025年の崖」まであと4年。太平の世の眠りを覚ますのは上喜撰か新型コロナウイルスか。産業アーキテクチャ霞ヶ関のお声がかりで構築してもらうのを待っているだけでは、DXを云々するのはおこがましい。それこそ「IT敗戦」にまっしぐらではないか。