「DXレポート2」に書かれなかったこと─経産省の真意を深読みする 情報産業からデジタル産業に軸足を転換、その過程で浮き彫りになる3つの課題(1)

2月16日に掲載されてから4月6日までアクセスランキングTop10に入っていましたが、ようやく圏外に消えたので、ここに再掲します。

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経済産業省が2020年末に公表した「DXレポート2(中間取りまとめ)」。それを紹介・解説する記事がこの1カ月でほぼ出そろった。後出しジャンケンになるようで恐縮なのだが、筆者が抱いた感想は、本来は2021年度の施策まで盛り込む予定だったのだが、その前にいったん考え方を整理しておきたかったのではないか、ということだ。以下、DXレポート2や年明けに公表されたディスカッションペーパーで、経産省が書かなかった/書けなかったことを“深読み”して述べてみたい。

 

具体策を打つための理論武装

 経済産業省が2020年12月28日に公表した「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』」で発せられたメッセージは、概ね以下のようなことである。

●コロナ禍でテレワークやネットデリバリー、ハンコの撤廃・省略などデジタルへの認識が高まった
●しかし実態としては、日本企業の95%がデジタルトランスフォーメーション(DX)にまったく取り組んでいない。ないしは取り組み始めた段階にとどまっている(図1
●多くの企業が現状維持を前提としていて、デジタル変革への危機感は低い

図1:DX推進指標の自己診断結果から日本企業の95%がDXに未着手であることが判明した(出典:経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」)

 これを受けてメディアは、本誌の既報にもあるように、「このままでは日本が負け組に転落する!」と、経産省が抱いている危機感を代弁し、警鐘を鳴らすことになる。

 すでに報じているとおり、DXレポート2はDX推進のための体制整備、戦略策定、人材確保など、「DX加速シナリオ」を簡潔にまとめたものだ。ただ、2018年9月公表のDXレポート第1版における、デジタルトランスフォーメーションという言葉の目新しさや、「2025年の崖」のようなキャッチーな副題がなかったので、多くのメディアは取り上げ方に腐心したに違いない。

 もう1つ、あまり注目されなかったようだが、経産省は年明けの2021年1月8日に「デジタル市場に関するディスカッションペーパー」を公表している。深化する少子高齢社会を視野に入れて、社会・経済活動における「機能」と「情報」の分離(デカップリング)と再編(リバンドリング)を論じたものだ(図2)。それを加速・拡大・拡散するデジタル技術こそが、産業構造や価値観を変革していく、という論旨である。

図2:社会・経済活動における機能と情報の分離=デカップリングと再編=リバンドリング(出典:経済産業省「デジタル市場に関するディスカッションペーパー」)
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 前者は副題どおりの「中間とりまとめ」、後者は「抽象論」ということで、取り上げるメディアが少なかったのかもしれない。しかし、産業政策を所管する経産省が、研究論文を出して終わりということはない。実際、2018年9月のDXレポート第1版の公表からDX推進ガイドライン、DX推進指標、デジタルガバナンスコード、DX経営銘柄、DX税制、デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)と施策を積み上げている(図3)。

図3:経済産業省のDX関連施策(2018~2020年度)

 こうした施策の積み上げを踏まえて、今回のDXレポート2というわけだが、同時に公表されたデジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会WG1の全体報告書からは、「2020年度のDX進捗状況は停滞気味」と判定していることが読み取れる。過去2年の施策が期待したほどの効果を挙げなかったのか、ユーザーサイドが存外にぬるま湯の深みにはまっているのか、その議論はさておき、「より加速するため」の施策の基本指針が「ディスカッションペーパー」、それをIT寄りに再編集したのがDXレポート2とすれば、理論武装が完了したことになる。いよいよ本格化に向けた弾込め、そして打ち出しというわけだ。

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