「DXレポート2」に書けなかった3つの問題
DXレポート2は仕事納めの年末ギリギリに公表しなければならないほど切羽詰まった内容ではない。もう1つのディスカッションペーパーも年初に公表するより、じっくり読み込む時間を考慮すべきだったかもしれない。
そのように考えたとき見えてくるのは、「DX加速シナリオ」を具体化する前、つまり弾=施策を打ち出す前に、基本的な考え方を示しておく作戦なのではないか、ということだ。本当は2021年度DX推進策を盛り込みたいのだが、示唆するだけの表記になるなら書かないほうがよいという判断があったように思える。
筆者の推測だが、「DXレポート2やディスカッションペーパーが書きたかったけれど書かなかった(書けなかった)こと」は次のようなことではないだろうか。
(1)IT人材の偏在
(2)IT産業における多重下請け構造
(3)ユーザーサイドにおけるIT部門の立ち位置
人材の流動化を促して「IT人材の偏在」を解消する
(1)IT人材の偏在は、すでに広く知られている問題だ。日本ではIT人材の7割超がIT産業に所属していて、ユーザーが思いどおりにITを利活用する要件が整っていない。これがコロナ禍で露呈した「IT敗戦」の要因とするのはいささか乱暴な話で、というのはユーザーだってIT案件の丸投げを可としていたことが否定できないためだ。とはいえ、産業の健全な発展を後押しする経産省がIT産業、なかんずく受託型ITベンダーの事業を縮小する方向に動くことはありえない。
そうなるとターゲットになるのは受託型ITベンダーでなく、IT人材だ。旧来の「受託」型ITベンダーに就業しているより、DX認定事業者に移籍したほうがいい、とIT人材が考えるように誘導するのだ。その施策としては待遇の改善、すでに実施されているリスキルとリカレント教育の機会創出、さらにデータサイエンティストやUI/UXデザイナー、ビジネスデザイナーといった新しい技術者資格の認定などが考えられる。
人材の流動化に関連して、臨機応変でベンダー側にもユーザー側にも立てる雇用モデルはないものか、といった議論が行われるかもしれない。そのような働き方は、副業規制の緩和とあいまって雇用と契約の問題に直結する。労働者派遣事業法(派遣法)は厚生労働省の所管なので経産省が立ち入ることは難しいが、契約モデルから切り込むことができる。
その関係では、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センターが策定し2020年3月に公開した「アジャイル開発版『情報システム・モデル取引・契約書』」が参考になる(図4)。ただ今後、ウェイトが高まるに違いないフリーランス(個人事業者)との契約をどこまでカバーできるか、その場合の権利関係や責任の所在をどう整理するか、課題は少なくない。