経済安全保障の目的はどこにあるのか?

広報プラスαのガイドブログ「経済記者 シニアの眼」 から転載します

 

 岸田文雄政権が2021年10月に発足して以来、日本政府は経済安全保障政策を強化してきた。2022年5月に「経済安全保障推進法」が成立し、今年5月に全面施行となる。今国会では「セキュリティ・クリアランス制度」を導入するための「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律案」の審議が進んでいる。法整備は着々と進んでいるが、経済記者として気になるのは、経済安全保障を何のために進めようとしているのかである。「日本経済のための安全保障なのか」、それとも「安全保障のために日本経済なのか」ということだ。


 言うまでもなく、経済とは「経世済民(世の中をよく治めて人々を苦しみから救うこと)」であり、政府には1億2000万人の日本国民が豊かに暮らせるように経済政策を進めていく責任がある。日本経済を脅かすエネルギー、食料、金融、知的財産など様々なリスクを回避するための政策を進める必要があり、日本経済のためのセキュリティ政策が「経済安全保障」だと筆者は考えている。

 しかし、過去に経済・貿易摩擦問題などを取材する中で、国家安全保障のために経済活動が制約されたり、犠牲が生じたりすることは少なくなかった。経済安保推進法の基本方針には「規制措置は、経済活動に与える影響を考慮し、安全保障を確保するため合理的に必要と認められる限度で行う」と書かれており、国家安全保障のためには、経済活動の規制措置も必要であると認めている。日本政府は、日本経済と産業の安全保障を真剣に考えているのだろうか。

■なぜ富士通フェアチャイルド買収断念に追い込まれたのか


 日本製鉄が昨年12月に米鉄鋼大手のUSスチールを約2兆円で買収すると発表したあと、全米鉄鋼労働組合がすぐに買収反対を表明した。その後、大統領選挙をにらんでトランプ前大統領だけでなく、バイデン大統領までが買収反対を支持している。そのニュースを見て思い出したのが、1986年の富士通による米老舗半導体メーカー、フェアチャイルド社の買収問題だ。この時も米半導体工業会、国防総省、米国議会などから買収反対の声を沸き起こり、富士通は買収断念に追い込まれた。

 買収断念が決まったあとの1987年に、筆者は富士通の山本卓眞社長(2012年死去)に単独インタビューした。山本さんは、陸軍航空士官学校出身だけあって、いつも背筋をピンと伸ばし正面を見てはっきりとモノをいう経営者だった。この時の山本さんの怒りは今でも鮮明に覚えている。その言葉をストレートに書くことはしないが、本当に悔しかったに違いない。

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