新東名に自動運転レーン デジタル田園都市構想の果実をアピールなのだが

経済記者シニアの会に掲載したコラムです

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広報プラスαのガイドブログ「経済記者OBの目」

 3月中旬から4月中旬にかけては並みの「カツ丼」(喝ドン!)を超える出来事が相次ぎました。安倍政権で長く外相だったのになぜロシアに行って習近平さんと一緒に和平の仲介をしなかったのか、という「喝!」を用意していたところ、和歌山・雑賀での爆弾騒ぎは論外として、しかし小学校の体育館とか公民館とか他にいくらでも会場はあっただろうと地元自民党支持グループに「喝!」――と、カツ丼のネタは尽きません。

 検討ばかりなのに支持率が上昇する不思議な内閣なのですが、霞が関の官僚は「ここぞ!」とばかりに首相肝いりの「デジタル田園都市構想」を一歩進めるシナリオを用意したようでした。3月31日に首相自ら会見して明らかにした「デジタルライフライン構想」(上の図)がそれです。

アーリー・ハーベストは成果ナシの焦り

 デジタル庁を筆頭に、国の「デジタル」政策は掛け声ばかりで、なかなか成果が見えない(見えにくい)のは否めません。産業界のDX(デジタル・トランスフォーメーション)もピリッとこない。そこで少しでも早く、誰もが「あ、時代は変わるんだ」と理解出来る「成果」を示そう、ということになりました。

 曰く「アーリー・ハーベスト」(early harvest)というわけです。裏を返せば、それは「デジタル」政策が進んでいないことへの焦りが見て取れます。首相肝いりの「デジタル田園都市構想」にかこつけた予算確保策ということができると思います。

 掲載した図はゴチャゴチャしていて一目瞭然とはいかないのですが、左上にある「フィジカル空間」に示されているのが「アーリー・ハーベスト」です。具体的には「ドローン航路」「自動運転支援道」「ターミナル2.0」「コミュニティセンター2.0」の4件ですが、「自動運転支援道」=新東名(駿河湾沼津~浜松間)に自動運転トラックレーンだけがクローズアップされました。

 もう済んだことなのでバラすのですが、官僚による首相への事前説明に充てられたのは、閣議直前の2分間だったそうです。2分間で理解できたのが自動運転トラックレーンだったのはやむを得ないかもしれません。しかし会見に出席した記者諸君も同じだったとしたら、それは困ります。

 ドローン航路=高圧電線と鉄塔の点検を兼ねたドローンによる物品搬送の実用化、ターミナル2.0=道の駅や駅前広場などを利用したMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)拠点の展開、コミュニケーションセンター2.0=公民館や公会堂などを地域のIT/デジタル拠点として行政サービスに利活用する――の3つが、報道からすっぽり抜け落ちてしまいました。

中・長期の大きな構想が抜けている

 なかなか成果が出てこない、成果が見えにくい、ピリッとしない。だから成果を示そうという“不純”な動機は「喝!」です。だけでなく、にわか仕立てなので穴ぼこだらけです。「拙速は巧遅に勝る」とはいえ、例えば自動運転レーンを走行するトラックのドライバーについて、その間は「休憩とみなす」というのでしょうか。レベル4(一定の条件下で人が運転操作をしない)の自動運転でも、ドライバーは就業しています。自動運転=休憩とされたのでは、ドライバー不足はさらに深刻になるでしょう。

 ドローンによる物品搬送が実現すれば、いわゆる「医療難民」や「買い物難民」には福音ですが、事故や損害の補償、責任の所在について法的な決着が付いていません。道の駅をMaaS拠点にするには、一般道路でのレベル5自動運転の環境整備が欠かせません。コミュニケーションセンター2.0は実現性が高いのですが、個々の地方公共団体の予算で実施するのでは中・広域のばらつきが出てしまいます。もっと大きな構想が必要でしょう。

 一昨年の秋ごろでしたが、「いまこそデジタル全国総合開発計画を」と書いたことがありました。略して「デジタル全総」です。デジタル・ハイウェー、デジタル新幹線をどう構築し、デジタル産業をどう配置するのか。そのためのデジタル人材をどう位置づけるのか。デジタル時代の石油=データをどう生成し蓄積し流通させるのか。ビジョンなきアーリ・ハーベスト型デジタル政策は、二度目のデジタル敗戦を懸念させます。