マスク着脱の“規制”緩和 複雑な心境ながら「喜ぶべき」なんだろう……ね(かな?)

「経済記者シニアの会」に掲載したコラムです

広報プラスαのガイドブログ「経済記者OBの目」

 今回は大上段から「社会・経済の不祥事を斬る」ような高尚な内容ではありません。身の回りから拾った卑近なネタです。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が「マスク着用の考え方の見直し等について」を決定したのは2月10日、その主旨「着脱は個人の意志で」が実施されたのは3月13日でした。ピーク時には1日当たり10万人近かった新規養成反応者は、今は10分の1以下ですし、オミクロン株は初期のベータ株やガンマ株、デルタ株に比べると重症化率が低いとされています。過剰に不安がる必要はないということから、当然といっていいでしょう。

 ですが、元に戻ることを手放しで喜んでいいのかどうか、です。例えば在宅勤務/テレワークを止めちゃうのか、オンライン会議のメリットを再確認すべきじゃないか、アベノマスクやコロナワクチンの受発注、COCOA開発プロセスは検証されたのか、デジタル敗戦から立ち上がる道筋はついたのか等々、課題は山ほど残されています。

小町通りは平日でも渋滞が発生

 で、冒頭に戻って、何が卑近かというと、掲載した写真です。鎌倉の鶴岡八幡宮を、正面の鳥居から振り返るかたちで撮りました。3月7日にJR鎌倉駅前で古い知り合いと落ち合う約束の時間まで、ちょっと足を伸ばしましたときのものです。

 梅が満開、日中の最高気温が12度前後ということから、皆さんまだ冬の装いです。ソーシャルディスタンスがばっちりなのは、大河ドラマが終わったからではありません。元もと平日の人出はこんなものでした。三が日も3年ぶりのロープ規制復活と、人出は確実に戻っています。

 これに対して小町通りは、平日にもかかわらずコロナ前の週末と見まごうような混雑でした。男女混合のグループ、ぎこちない和服姿の二人連れが少なくないのは、大学の春休みが始まったのと、外国人観光客が戻ってきたためと分かります。ときおり渋滞が発生し、マスク必須の混雑です。

 いうまでもなく、小町通りはJR鎌倉駅八幡宮を結ぶ裏参道です。参詣地の八幡宮がソーシャルディスタンスばっちりなのに、小町通りは大渋滞というのはどういうことなのか、始めのうちはよく分かりませんでした。

鎌倉は食べ歩きファストフォードの街

 しばらく行くと、渋滞の理由(原因)が分かりました。

 串に刺したイチゴ飴やホイップクリームであでやかにデコレーションしたお団子、コロッケ、唐揚げといった、「映え」の食べ歩きファストフードに大勢の若い人が群がっているのです。そういうお店が両サイドにあると、人の流れが滞って、なかなか進むことができません。

 もう一歩踏み込んで考えると、この数年(つまりコロナ禍の3年)で、観光客の行動パターン、ひいては「観光」の意味が変わったのかもしれません。少なくとも筆者の地元である鎌倉は、源氏・北条氏ゆかりの寺社仏閣や由比ヶ浜江ノ島がメインから外れ、食べ歩きが主目的になったとすら思えます。

 鎌倉は東京都内から電車で1時間、日帰りができる観光地です。日帰り客が圧倒的に多いので、コロナ前の年間観光客2000万人といっても地域経済はさほど潤っていません。商店街の方はゴミ処理の経費負担に頭を悩ませていました。

 それで鎌倉市は2019年3月に「鎌倉市観光等マナーの向上に関する条例」で小町通りや長谷・大仏通りなどで「食べ歩きはやめましょう」運動を展開しました。ところがコロナ禍で観光客が激減して大きな痛手を被ったので、今回の「自主」規制の緩和は喜ぶべきことかもしれません。

それも経済ではあるけれど

 とはいえネットを検索すると「食べ歩きグルメマップ」だの「おすすめ食べ歩きスイーツ」だののオンパレード。食べ歩きがメインとなると、素直に喜んではいられません。食べ歩きファストフードの店は窓口販売が基本なのでイートインスペースを用意しなくてもいいし、多くは域外の業者なので、売れ行きが落ちてきたらちゃっちゃと撤退することができます。

 結果、店がめまぐるしく入れ替わり、町の景色に落ち着きが失われやしないかが案じられます。いやそれが新しい時代で、ファストフォードも賑わいの一つ、その収益は経済の潤い――ではあるのですが、ファストフードなかりせば経済が成り立たない、となると、これはちょっと考えものです。大げさに言うと観光立国ってカジノ経済と同じではないんだろうか、などとこじ付けてみましたが、いかが。