3月期決算の法人向けWebサービスの2021年度通期業績は、売上高が前年同期比△23.1%、営業利益が△83.7%、営業利益率は19.1%と好調が続いている。なかでもASP/SaaSは売上高が△35.7%、営業利益が倍増となっており、市場形成が本格化してきた。業務アプリケーションのサブスク利用への理解と、ニーズにフィットするサービスの登場が好循環を作っている。サービス利用手順のデジタル度が利益率を左右するとともに、就業者への最適な利益配分を検討する時期が近づいている。
「デジタル産業」の主軸に大化けするか
2022年3月末現在、株式を公開しているWeb対応サービスの3月期企業は50社で、2021年3月末と比べ2社減少した。減少の事由は、経営統合に伴う上場廃止が1社、決算月変更が1社となっている。
このため経営指標4情報(売上高、営業利益、経常利益、純利益)の前年同月比および、売上高に対する営業利益、純利益の割合)営業利益率、純利益率)は、2021/2022年連続比較可能な企業で行う。
48社の主業務別内訳は以下のようになっている。
- 広告代理サービス 7社
- データ分析・活用 13社
- ASP/SaaS 30社
発注者である法人との契約に基づいて業務を受託するのは「マンパワー依存型受託」と同様だが、オンサイトの労務・役務でなく、Web経由のサービスとして提供される。「Web対応の受託」と言い換えていいかもしれないが、対価の基準が「人/月単価」でなく、利用頻度や利用形態に応じて提供者側が設定する点が決定的に異なっている。
また、Web対応であり登場した時期が重なっていることから、照会・検索・マッチングを共通機能とするポータルサービスと混同されやすい。そこで本稿では、Webサービスは固定的な契約に基づく法人向け(B―B)サービス、 ポータルサービスは随時・適時のB―B―C取引き(ないしその仲介サービス)と規定した。
「マンパワー依存型受託」は上場の第1号(コンピューターサービス:東京証券取引所第2部/1980年6月)が40年以上も前ということもあって、3月期決算が約半数(47.3%)を占める。これに対し「Webサービス」は約3割(29.4%)、「ポータルサービス」は約4割(38.
2%)に留まっている。月単位で見ると3月期が最多とはいえ、全体の景況を読み取るには標体の不足感が拭えない。
Webサービスはオンライン受託計算のインターネット版ないし、ソフトウェア・パッケージの分割販売(時間貸し)と解釈できないこともない。しかし価格設定の主導権が提供者側にあって、、利用者の要求を調査して競争優位な機能・サービスを開発する市場創出型という意味で、大化けすれば「デジタル産業」の扉を開く可能性を秘めている。
利用が広がれば利益が増える構造
Webサービスの2022年3月期業績は以下のようだった(前年同期比の△はプラス、▼はマイナス、Pはポイント)。
◆全体(50社)
- 総売上高:3902億31百万円 △23.6%
- 営業利益: 711億51百万円 △85.0%
営業利益率:18.2%(+6.1P)
- 経常利益: 838億17百万円 △118.3%
- 純 利 益: 549億70百万円 △134.7%
純利益率:14.1%(+6.7P)
Webサービスは独自でデータセンターの設備・機器、システム運用にかかる要員などを保有する必要がない。固定費はサービスに供する業務アプリケーション、データ管理環境の維持改善費および新規サービスの企画開発費なので、利用が広がれば広がるほど利益が上積みされて行く。
2022年3月期に売上高が2期連続2けた増となり、営業利益が売上高の伸びを3倍近く上回ったのは、まさにその特性による。ビジネスモデルと顧客のニーズがマッチし、本格的な市場形成が始まったと言える。
主業務別の業績は以下のようだった。
◆広告代理サービス 7社
- 売 上 高:505億54百万円 ▼17.5%
- 営業利益: 69億06百万円 △4.5%
- 営業利益率:13.7%(+2.9P)
- 経常利益: 69億41百万円 △5.1%
- 純 利 益: 21億86百万円 ▼37.0%
- 純利益率:4.3%(-1.3P)
東証プライムのアドヴェイズ(証券No.2489)が決算期を12月期に変更した。これにより2021年3月期の売上高490億20百万円、営業利益16億26百万円が消失した。
売上高が▼17.5%となった主な要因は、レントラックス(No.6045、東証グロース)の売上高が123億50百万円から24億55百万円に減少したことだが、同社の決算短信によると「収益認識に関する会計基準」の適用によるものであって、2021年3月期までの基準による2022年3月期売上高は167億13百万円(△35.3%)と言う。その場合、広告宣伝7社の売上高は648億12百万円(前年同月比△5.8%)に補正される。
またUnipos(No.6550、東証グロース)は2021年3月末で広告代理サービスから撤退し、業務アプリケーション・プラットフォーム(SaaS)事業に転換することを表明している。
◆データ分析・活用 10社
- 売 上 高:667億46百万円 △21.7%
- 営業利益: 67億45百万円 △60.4%
- 営業利益率:10.1%(+3.0P)
- 経常利益: 66億03百万円 △67.1%
- 純 利 益: 49億79百万円 △53.0%
- 純利益率:7.5%(+2.9P)
会社概要や業種分類などでは「マーケティング」「マーケティング支援」といった言葉が頻出する。しかし顧客を誘導したり購入を促す口コミサイト、通信販売サイト、アンケートサイト、広告や物販と連動したゲームサイトなども「マーケティング」の範疇に入る。
本稿では、顧客との契約に基づいて特定市場・製品に関するデータ収集・分析サービスに絞った。最近のバズワードを使えば、ビッグデータ分析、データサイエンス、AIといった技術を援用したスタートアップの参入が期待される。
◆ASP/SaaS 30社
- 売 上 高:2729億31百万円 △35.3%
- 営業利益: 575億00百万円 △104.5%
- 営業利益率:21.1%(+7.1P)
- 経常利益: 702億73百万円 △149.9%
- 純 利 益: 478億05百万円 △173%
- 純利益率:17.5%(+9.6P)
上場年で整理すると、30社のうち3社が2020年、21年が8社となっている。コロナ禍で注目された非接触型経済活動が業務別セグメントの業績を押し上げ、証券市場の期待から新規上場が相次いだ。
目につくのは、資金決済サービスを主業務とするデジタルガレージ(No.4819、東証プライム)。キャッシュレス、公金のネット支払いの利用拡大を背景に、売上高729億55百万円が「ASP/SaaS」セグメントに占める割合は29.2%(2021年3月期は22.0%)に拡大した。前年同期比を見ると、売上高△80.2%(1.8倍)、営業利益△127.6%(2.3倍)、当期純利益△216.7%(3.2倍)となっている。