3月期決算/マンパワー型受託サービス112社 「低位安定」からの脱却なるか(2)

 1人当たり業績=実質はどうだろうか

 企業ベースの集計結果を見ると、受託ITサービス業は好調そのものといっていい。コロナ禍で減収減益に苦しんでいる他業種から羨望の目が向けられ、就職・就業希望者が増えるのは無理もない。

 同じ数字を就業者の目線で検証したらどういうことになるだろうか。いつものように就業者1人当り業績を算出してみよう。

 5月20日の時点では各社の有価証券報告書が公表されていない。このため2021年度の正規/非正規雇用者数は確定していない。そこで非正規雇用者数は2021年3月末現在の数字をそのまま転用し、正規雇用者数はYahooファイナンス掲載の直近データを使用する。

 (注)就業者数の増減により売上高、営業利益、経常利益、純利益の前年同期比は変動する。企業ベースの数値を同じ修業員数で除しているため、営業利益率、純利益率は変動しない。

 ◆全体(112社)

  ●就業者数 48万4297人 △3.3%

        正 規 39万9448人 △4.0%

        非正規  8万4849人 増減なし

  ●総売上高:1696万円 △3.4%

  ●営業利益: 183万円 △23.1%

  ●経常利益: 188万円 △29.1%

  ●純  利  益: 127万円 △32.3%

 就業員数が3.3%増加したため、単純計算による企業ベースの増加率が6.8%から3.4%に低減した。営業利益、経常利益、純利益も同様に低減しているが、2けたの増加を維持している。

 業務カテゴリー別の業績は以下のようだった。

BPO/運用管理受託サービス 20社

  ●就業者数 14万5369人 △6.9%

        正 規 9万0274人 △11.5%

        非正規 5万5095人 増減なし

  ●売  上  高:749万円 ▼ 5.1%

  ●営業利益: 60万円 △ 2.1%

  ●経常利益: 63万円 △ 5.3%

  ●純  利  益: 43万円 △13.9%

◆制御系プログラム開発 10社

  ●就業者数 8823人 △4.1%

        正 規 8537人 △4.3%

        非正規  286人 ▼2.4%

  ●売  上  高:1236万円 △ 2.3%

  ●営業利益: 128万円 △25.5%

  ●経常利益: 134万円 △20.5%

  ●純  利  益:  89万円 △39.7%

 非正規雇用者の減少は自律制御システム研究所が社名を「ACSL」に変更し12月期に移動したことによる。既存10社ベースの1社当りで換算すると、正規雇用者は854人で△14.8%となる。

◆業務系システム開発 58社

  ●就業者数 6万2751人 △5.2%

        正 規 5万9090人 △5.6%

        非正規   3661人 増減なし

  ●売  上  高:1721万円 △ 2.5%

  ●営業利益: 182万円 △16.8%

  ●経常利益: 188万円 △16.5%

  ●純  利  益: 126万円 △21.6%

 売上高は2021年の▼5.1%から大幅に回復した。また2期連続で純利益が100万円を超えた。

◆計算処理/複合サービス 24社

  ●就業者数 26万7354人 △1.4%

        正 規 24万1547人 △1.6%

        非正規  2万5807人 ▼0.1%

  ●売  上  高:2221万円 △ 7.3%

  ●営業利益: 251万円 △30.8%

  ●経常利益: 258万円 △39.2%

  ●純  利  益: 175万円 △40.5%

 「計算処理/複合サービス」の1人当たり売上高は2018年3月期以来5期連続して2000万円を超えている。また、マンパワー依存型受託ITサービス業全体の就業員数の55.2%、売上高の72.3%を占める「計算処理/複合サービス」の景況が大きく影響する。

 体質転換の有無は10年間の推移で

 売上高と利益が増え、就業者は増加している。長年の課題だった「営業利益率10%超」も達成した。低迷が指摘される国内経済のなかで順調に業績が伸びているのは結構なことには違いない。しかし営業利益率10%を達成したことが、「21世紀の日本を牽引する知識集約産業」になった証ではない。

◆2012年3月期は過去最低

 いまから10年前=2012年3月期の状況はどうだったかというと、集計企業数は119社で2022年3月期より7社多かった。富士通ビー・エス・シー、エヌ・ジェー・ケー、情報技術開発、三井情報開発、JBISホールディングス(日本電子計算)といった、いかにも「昭和」な企業が名を連ねていた。

 119社の業績は次のようだった。

  • 総売上高:5兆0616億09百万円 △0.1%
  • 営業利益:  3303億63百万円 △4.5%

         営業利益率:6.7%(+0.3P)

  • 経常利益:  3330億38百万円 △4.0%
  • 純 利 益:  1413億13百万円 ▼6.7%

         純利益率:2.8%(-0.2P)

 就業者1人当り業績は次のようだった。

  • 就業者数 32万4923人 △2.3%

        正 規 25万5613人 △2.0%

        非正規  6万9393人 △3.4%

  • 総売上高:1557万円 ▼2.2%
  • 営業利益: 102万円 △2.1%
  • 経常利益: 102万円 △1.6%
  • 純 利 益:  43万円 ▼8.8%

 メインフレーマー系の再編、独立系の経営統合などによって、2006年3月末の136社が119社に収斂したタイミングで、全体の売上高はからくも前年同期比△1.0%と体面を保ったが、実質(1人当り業績)は過去最低に落ち込んだ(ちなみに1人当り売上高が最も高かったのは2002年3月期の2332万円)。

◆最低と最高を比較する

 2022年3月期は売上高、営業利益率、純利益率ともに過去20年の最高値だった。対して2012年3月期は過去20年の最低値を記録している。最低と最高を比べることになる。

 1人当り業績の推移を見ると

  • 売上高

   1557万円→1696万円 △8.9%

  • 営業利益

   102万円→183万円 △79.9%(1.8倍)

  • 純利益

   43万円→127万円  △192.6%(2.9倍)

 となる。

 これをどう見るかだ。