As-Is/To-Beはもはや限界、“DXの見取り図”からデジタル基盤を築けるか(3)

DXという未知の領域に踏み出すには

 2015年、IoT(Internet of Things)が話題になり、政府の未来社会コンセプトとしてSociety 5.0が提唱された。これを機にIPAは「つながる世界」のシステム開発指針やシステム品質管理、安心・安全の確保にシフトした。しかしAs-Is/To-Beはシステム設計・開発手法の位置づけは変わらなかった。

 現時点における企業のDXへの取り組みは、20世紀型ないしワークフロー型システムからの脱皮またはWebアプリケーションとの連携・統合がメインなので、依然としてAs-Is/To-Beは有効な手法と言っていい。現状=As-Isからスタートせざるをえないからだ。

 しかし、DXで描かれる、デジタル化された社会・産業への対応となると話は変わってくる。As-Is/To-Beでできるのは現状の改善・改良までで、ビッグデータ分析やAIについては、多くの企業がPoC(Proof of Concept:概念実証)にとどまっている。

 まして、これからどんな新しい技術が登場し、どのような実用例が出てくるか分からない。DXは未知の領域に踏み出すことでもあるので、As-Is/To-Be手法では追いつかない。システム設計・開発手法にも変革が必要というわけだ。

 「DXレポート」の実質的な執筆者とされる経産省情報経済課 アーキテクチャ戦略室長の和泉憲明氏は、DX推進上の課題として次の4つを上げる。

●デジタル技術に対する無知・無関心
●社内IT部門と他部門の対話不足
●個々の企業の行動変容を促す意識改革
●外部ITベンダーに「丸投げ」する傾向

 このために経産省は企業内の理解を促すためにDX推進ガイドライン、DX推進指標・ベンチマーク(2019年度)、実効性評価項目、プラットフォーム(PF)デジタル化指標、PF変革手引書(2020年度)を策定する傍ら、環境整備として情報処理促進法の改正、DX銘柄、モデル契約書の改定などを行ってきた。

ドンキホーテになってデジタルを妄想する

 今回のDADCは、見取り図から逆算して考えうるデジタル基盤(クラウド、デジタルID・認証、トラストサービスなど)や法制度、社会・経済の共通認識や企業におけるガバナンスを形成する試みだ。関係者が「ドンキホーテ的」と苦笑するのは、絵に描いた餅に終わるのではないかという懸念を意識したものだろう。

 DXの見取り図を描くには、これまでと違う視点でのTo-Beが必要だ。「デジタルを妄想する」必要があると言ってよい。ひたすらデジタルを妄想し、「しかし・でも」を禁止する(否定から入らない)。やれるところからやってみる。

 「さて……」と戸惑う人が圧倒的多数だろうが、PF変革手引書を読むと「DXを実現するためのITシステムのあるべき姿の整理」という項目を見つけることができる。「データ活用」「スビード・アジリティ」「全社最適」の3つの要素と期待できる効果をまとめたものだ(図4)。

図4:DXを実現するためのITシステムのあるべき姿の整理(出典:情報処理推進機構
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 「データ活用」はデータドリブン(データ駆動型)システム、「スピード・アジリティ」は変化への迅速対応能力、「全社最適」は個々の企業にとどまらず、関係する事業体や産業ドメインを意味している。電気通信事業法でVAN(付加価値通信網)が自由化されたとき、産業ドメイン単位でコード体系や取引ルールが整備され、ドメイン間の整合が図られたプロセスを思い出す。

 成るか成らぬか、設立・始動したばかりのDADCを云々するのは時期尚早だ。ただ、「未来予想図」のTo-Be手法が見落としがちなのは、バブル経済の崩壊からの約30年間に培われた「空気読めよ」の風潮ではないか。

 行政のデジタル化には、政府・行政機関の情報公開と政策意思決定プロセスの透明性が必須なのは分かっている。にもかかわらず……これ以上は言わずもがなだ。そのような空気読めのムードがDXの足を引っ張るかもしれない。ドンキホーテになってデジタルを妄想することから始めるのも、1つの手ということだ。