デジタルガバメント集中投資の行方 ポスト安倍/アフターコロナのIT施策はどう動くか(3)

巻き返しの基盤は整った、後は実行あるのみ

 世界銀行が2018年10月にまとめた「事業環境ランキング」で、日本は世界190カ国中39位。国連経済社会局(UNDESA)の「電子政府発展度指標(EGDI)」では、日本は2018年の10位から14位に後退──。その要因はITそのものではなく、法制度や手続きなどがIT/デジタルを前提とした体系になっていないことにある。

 これに対して、ここ数年で戸籍や住民票に使用する約6万文字を標準的な1万文字にひも付けした「MJ縮退文字」のほか、内閣官房IT総合戦略室に政府機関のIT調達を一元化する機能の付与、経済産業省情報プロジェクト室における実証的システム構築(マイナポータルを活用した法人登記ワンストップサービス)、地方公共団体や民間団体(コード・フォー・ジャパンなど)などが参加する研究会「GovTech」の発足と、昨年末までに体制はかなり整ってきた。

 さらに言えば、政府システムのクラウド基盤に米AWSAmazon Web Services)が提供するパブリッククラウドの採用、WebアプリケーションやAIの応用、ビッグデータ分析、アジャイル開発、ローコード開発など、得意分野を持つテクノロジースタートアップ企業への発注を可能とする“技術的対話”方式も始まっている(図3)。

 

図3:調達・開発手法と人材・実施体制のアップデート(出典:内閣官房IT総合戦略室「デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザインについて」2020年2月12日討議用)

 政府や地方公共団体のIT調達で大きなシェアを占めている日立製作所富士通NECNTTグループといった大手SIベンダーは、今後とも一定のウェイトを持ち続けるだろう。DX化では既存システムの棚卸が必須となるためだ。また、東京、大阪、名古屋、福岡などを除く地方公共団体の領域では、地域SIベンダーの根強さが無視できない。

 ただ、システム開発案件を要件定義、技術仕様の策定・指導、プロジェクトマネジメントなどに細分化していけば、それは外資系やスタートアップ系IT企業が食い込む余地が広がることを意味している。「クラウド・バイ・デフォルト」のコンセプトが徹底すると、1案件数百億円超の大規模システム開発が激減する。近い将来、デジタル・ガバメントは大手SIベンダーから見たら、労多くして益少なしの市場になることも考えられるのだ。

 

デジタル・ガバメント実現に向けて、ハシゴ外しか体制強化か

 こうした流れは、IoTをめぐる総務省経済産業省の連携(2015年10月のIoT推進コンソーシアム発足)を契機に一気に表面化したのだが、良し悪しは別として、経産省と関係が深い西村康稔経済再生担当相、今井尚哉首相補佐官などが安倍首相をサポートした結果と見る向きが強い。

 見方を変えると、2001年度にスタートしたe-Japan基本戦略以来、内閣府が仕切ってきた電子政府プロジェクト、総務省が推進した電子自治体プロジェクトを、首相直轄のプロジェクトに格上げしていこうという暗黙の了解が形成された、とも受け取れる。見直しのたびに「世界最先端の電子政府、デジタル社会」を繰り返しながら、マイナンバーの活用は一向に進まない。もし順調に利用が広がっていれば、マイナンバー制度も長期政権のレガシーになるはずだった。

 総務省地方公共団体の行政手続きを中心にデジタル化、DX化を推進する策を講じているが、民間企業や国の機関との連携となると所管から外れる。一方、経産省の所管は民間のIT利活用に限られる。だが少なくとも現時点では、勢いは経産省にあると言ってよい。

 その経産省を概観すると、商務情報政策局に限らず、デジタル、DXを前提とする施策が大流行りだ。例えば2020年5月に公表された「ものづくり白書2020」でも、287ページの3分の1をデジタル/DXに費やしている。関係者の中には、この状況を“DXの惑星直列”と評する向きもある。

 場合によっては、官と民との境なく適用できるIT調達のガイドラインや、デジタル・ガバメントのアプリケーション共通基盤に踏み込むことも考えられる。その意味で、デジタルニューディールは、来年度から集中的かつ効果的にデジタル・ガバメントを実現していく予算を担保するものだった。これまでの政策立案、予算化、実施のプロセスから言えば当然だろう。

 突然の安倍首相の辞任表明は、関係府省の官僚にとって想定外だったに違いない。後継首相がだれになるにせよ、デジタル・ガバメント/DX推進の視点で最大の関心事は、官邸、内閣官房内閣府、関係府省の惑星直列がどうなるかだ。関連して既存SIベンダーの巻き返しがあるかどうかも注目だ。

 後継首相が「残りの任期中に何か自分らしいことを」と力めば力むほど、関係府省の現場を取り仕切る官僚の負担は重くなる。今から新たな項目を追加したのでは、来年度の予算をじっくり編成する時間が残されていない。

 一方で、IT担当大臣、官邸、内閣官房内閣府の人事いかんでは、デジタル・ガバメント/官民DX推進施策はハシゴ外しになるかもしれず、安倍政治を継承するならより強化される可能性もある。長くITに軸足を置いている者として、「政局から目が離せない」という記事を書くことになるとは思ってもいなかった。