デジタルかアナログ・ガラパゴスか 目指すべきは「ブロックチェーン社会」(上)

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河野氏が開設した「行政改革目安箱」

 

ハンコ撤廃は慣例・前例主義の突破口

 菅内閣発足直後、河野太郎行革担当相がすかさず開設した自前の「行政改革目安箱(縦割り110番)」は勇み足だった。異論・正論、有象無象のコメント4000通以上が集中して収拾がつかなくなった。それだけでなく、発信者の個人情報の扱いにも問題がある、と指摘されている。

 一方、目玉施策の「デジタル庁」(仮称)について、平井卓也IT/デジタル担当相は「新庁発足に時間をかけるつもりはない」と、霞ケ関が流した「2022年4月発足」説にクギを刺し、返す刀で関係省庁から選りすぐりの50人による「デジタル改革関連法案準備室」の設置までこぎつけた。

 9月30日の会見で、平井氏は菅首相のアダ名「ガースー」にかこつけて、「GaaSU」のスローガンを打ち上げた。「Government as a Start-Up」の英文略という。

 「行革で地雷を除去し、デジタル庁が整地する」と語ったように、河野行革担当相は全府省に「ハンコが必要な理由を述べよ」と迫っている。行政手続きのデジタル化を阻んでいるのは、ハンコだけでなく、和暦と西暦、住所・氏名のフリガナ、「念のため」の添付書類、個人情報保護にかかる2000個問題など、突破しなければならない壁が山ほどある。

 ハンコは具体的で、誰にでも分かりやすい。慣例と前例主義の象徴のようなもので、これが廃止・省略できるようになれば他のハードルは低くなるという計算があるのだろう。

 

関連セクション職員から強い支持

 IT・デジタル担当相に就任した平井氏は、第4次安倍内閣(2018年10月~2019年9月)でIT担当相(科学技術・知的財産戦略・クールジャパン戦略・宇宙政策兼務)を務め、「デジタル手続法」(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)を成立させた実績を持っている。

 自由民主党ネトウヨSNS部隊を指揮したデジタル社会推進特別委員長だったではないかと、ナチス・ドイツのマクダ・ゲッペルス宣伝相のように非難する向きがないでもない。しかしIT関連民間団体や情報関連法制度の研究会の会合に積極的に出席する勉強家であることは間違いない。

 IT業界団体の会合で気が付いたら平井氏が隣に立っていた、というようなことが何度かある。正直なところ苦手なタイプなのだが、その手腕は認めなければならないだろう。IT/ICTの専門用語を自在に操って、霞ケ関の官僚や行政機関CIO(Chief Information Officer)/CIO補佐官たちとやり合える数少ない政治家の1人といっていい。

 それだけでなく、平井氏のIT/デジタル担当相就任は霞ケ関のIT施策セクション(内閣官房のIT総合戦略室、経済産業省の商務情報政策局、総務省の情報流通行政局、総合通信基盤局など)の職員から、好意的に受け止められている。官僚から支持されている(受けがいい)ことは、大きな推進力になる。

USBが分からないG3が問題だった

  ネット上の評価を見ると、「IT/デジタル担当相が62歳ってどうなの?」という声が目につく。

 菅氏と自民党4役(幹事長、総務会長、政務調査会長選挙対策委員長)の平均年齢が71.4歳で全員が男性ということから「5G」(5人の爺さん)と揶揄されている。内閣21閣僚の平均年齢60.4歳のなかで、平井氏は上から数えて10番目だ。

 台湾のコロナ対策で一躍名を知られたIT/デジタル担当政務委員(大臣)オードリー・タン(鳳唐)氏の39歳と比べると、親と子ほどの開きがある。しかしだから何だというのか。

 記者会見で

 ――行政手続きのデジタル化とは?

 と問われて、

 ――アットワンス、ワンスオンリー、デジタルファースト、そのために大切なのはUIとUX。

 と自分の言葉で語ることができたIT担当相がこれまでにいただろうか。

USBって何? というレベルのG3(爺さん)に「でも・しか」で大臣のイスを割り当ててきたことが問題だったのだ。

 ちなみにアットワンスは基本情報(住所・氏名・年齢・性別・連絡先など)は1度登録するだけ、ワンスオンリーは1度に複数の関連手続きが完了すること、デジタルファーストは人手と紙を前提とする手続きからの脱皮、UI(User Interface)は利用者にとっての使いやすさ、UX(User Experience)は利用者が「わっ、便利!」と実感することをいう。

 官僚やエンジニアが何を話しているのか、それが何を意味しているのか、不備な点はどこかが分かって、他の閣僚に根回しができ、予算を手配できれば担当相の役割は完了する。システム設計ができなくても、プログラミングができなくても、一向に構わない。ただし、平井氏が専門用語を知っている自分に酔って、IT/デジタルの井戸中蛙にならないよう、出来るだけ「日本語」で語る努力が必要だろう。

 G5(第5世代通信技術)の時代に党4役や閣僚がG3ばかりというのはたしかに情けないけれど、そのG3たちを説得するには62歳がちょうどいいと言えなくもない。平井氏とパートナーを組む「デジタル庁」の長官にイキのいい若手が民間から起用され、そこに若いITエンジニアがプロジェクト単位で結集する、というイメージだ。

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