誰が考えたってコロナショックで受託系ITサービス業は壊滅的打撃 時間の問題だが再生のチャンスも

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デイリースポーツ 序ノ口、煌-艶郷戦から無観客の春場所が始まる

新型コロナウイルスの拡散が止まらない。3月9日、政府の専門家会議は「なんとか持ちこたえている」と発表したが、判明している感染者数はあくまでも保健所がPCR検査を許可した限りの話だ。命にかかわるのは既往の疾病を持っている高齢者が多いようだが、就学前の児童や就労世代でも重症化する事例が報告されている。

「世界の工場」を自他共に認める中国が麻痺状態に陥り、感染が欧州諸国やUSAに広がっている。目の前の突出した事象は、大手企業を中心とするテレワークと在宅勤務(という名の自宅待機)、10人以上の会合や飲食の自粛だ。大相撲三月場所や春の甲子園は無観客で開催、プロ野球は開幕を延期した。

消費増税でGDPが大幅に落ち込むのは必至、安倍内閣がかねて「リーマンショック級の景況変化があれば」といっていた増税見送り要件が増税後にやってきた。諸外国との人的交流ばかりでなく、中国からの部品切れで操業を一部停止する工場が出るなど物流に影響が及び始めた。

長期化する自粛ムードとポスト2020問題

専門家会議の尾身茂副座長は「状況判断の時期」として3月19日をあげたが、「当面の」であるにすぎない。むしろ注目すべきは、「四月以後も続く可能性がある」「場合によっては年越しも」という見通しを示していることだ。つまり、このままだと東京オリンピックパラリンピックの中止(または延期)は避けられない、と理解できる。

実際、日本より平均気温が高い地域でも感染が広がっているのだから、「新型ウイルスが高温・多湿に弱い」とは断定できない。S型とL型の2種類があるようだ、ともいわれ、それぞれがどのような変異をたどるのか、感染力と毒性はどうなのか

それでなくても産業界では、「オリパラ後に景気が後退する」と囁かれていた。いわゆる「ポスト2020問題」だ。経済産業省が「2025年の崖」でIT投資の拡充を訴えたのは、景気の落ち込みを少しでも抑制しようというねらいもあった。

企業の新規投資は間違いなく縮小する。これまでのケースから類推すると、従業員のレイオフと外注費の圧縮が先行するのだが、1990年〜1992年秋のバブル経済崩壊、2008年秋のリーマンショックのときとは状況が違う。詳細は省くが、非正規雇用と派遣で働く就労者の数は当時と比べ物にならないほど増えているし、社会(産業界)における派遣業の位置付けも変わっている。

正規雇用就労者と派遣要員がいなければ、企業は回らない。雑巾を絞れるだけ絞っているので、人を減らすことは難しい。リーマンショックで登録型人材派遣会社は強烈なパンチを受け、その後の再編でパソナを軸とする構造に転換した。いつの間にか登録型人材派遣会社が発注元のコア・プロセスを握っているので、不況に強い体質に転換しているのだ。

となると、削減できるのはIT予算ということになってくる。

投資どころじゃない IT予算は何割減るか

先に日本情報システム・ユーザー協会が公表した『企業IT動向調査2020』によると、全体を牽引する売上高1兆円以上の超大手企業57社の2020年度IT予算の見通しは、「2019年度より10%以上増加」が14.0%、「10%未満増加」が28.1%、「変わらない」が40.4%、「10%未満減少」が10.5%、「10%以上減少」が7.0%だった(下図)。

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グラフ2 2020年度IT予算見通し

14.0+28.1=42.1%の企業(のIT部門)が「予算が増える」 と回答しているのは頼もしい限りだ。しかし手放しで喜んでいいわけではない。2019年度のIT予算見通し(下図)と比べると、「増加」は46.9%から42.1%に8.8ポイント下落し、「減少」は15.7%から17.5%に1.8ポイント上昇している。また、「増加」の割合から「減少」の割合を引いたDI値は、2019年度の31.2から24.6に6.6ポイント下がっている。

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グラフ2 2019年度IT予算の見通し

IT予算にはIT部門の人件費、ITシステムを維持するためのリース代金や通信回線料、運用管理のための人件費や改修費、外注費など「守りのIT予算」が大きなウエイトを占めている。これまでと大きな変化がないとすれば、全予算の8割は「守り」に使われている。

別の見方をすると、新規分野の開拓や新商品・サービスの開発、あるいは「働き方改革」「ダイバーシティ」「男女平等参画」といった企業価値工場につながる「攻めのIT予算」は2割程度だ。本来はここを拡充しなければならないのだが、景気後退=事業縮退となれば、まずはこの領域のプロジェクトがストップする。

急激な景気後退で企業経営者が考えることは、生産調整と在庫・人件費の圧縮だ。「いまこそ新規事業を」「だからこそデジタル化を」とは考えない。デジタル化を進める前に足元を固める、というのは、常識的なところだ。

単純に考えると、2020年度のIT予算は2019年度に対して2割前後減ってもおかしくない。新年度予算の執行は6月以後というケースが多いので、その影響が出るのは秋口以後、IT系は通例、さらに3か月から半年遅くなる。

過去の例から類推するとSESで最大20万人超が余剰

1990年に散発的な兆候が見られ、1992年秋に顕在化したバブル経済の崩壊は93年春に日本経済全体に波及した。IT領域では新規開発プロジェクトの中止・中断が相次いだ。当時はメインフレームが全盛、一部にWindows系PC(MS-DOS/Windows3.1)やUNIXワークステーション/サーバーを利用した分散協調型システムが普及しつつある状況だった。専門誌にはマイクロ・メインフレーム・リンク(MML)、クライアント・サーバー・システム(CSS)といったバズワードが踊っていた。

受託系ITベンダーの主戦場は、もちろんメインフレーム領域だ。1980年代の後半に始まった都市銀行の第3次オンライン・システム構築、証券業界の情報系列競争(3つのサイ(国際、国債、業際)対応)がひと段落し、他産業で基幹業務システムの再構築が本格化していた。

このため当時の受託系ITベンダーはどこでも人手不足だった。大量の新人を抱え込んだところを、プロジェクトの中止・中断が直撃した。ピークだった1991年、「情報サービス産業」の事業所数は約7千、就業者数は約49.3万人だったが、4年後の1995年には5.8千事業所、40.7万人に縮小している(経産省「特定サービス産業実態調査」)。雇用調整助成金とつなぎ融資でしのいだが、それでも差し引き1.2千事業所、8.6万人が業界から消えたことになる。

消えた事業所は必ずしも倒産を意味しない。というと、M&Aが進展したのか、と考える向きもあるだろうが、残念ながらまったく違う。登記はそのままに事務所を閉鎖・休眠したケースが多かったのだ。特サビ調査に回答しなかっただけということもあったろう。取材の帰りがけに立ち寄ったらドアに鍵がかかっていた、もぬけの殻だった——そういう会社をいくつも知っている。

消えた要員のうち、技術力があったり、上昇指向が強い人たちは、常駐していたユーザー企業に就職したり、折から勃興しつつあったインターネット系サービス会社や旧来からのパソコン用ソフトメーカーに転籍した。なかには故郷に戻って家業のかたわら、地元企業のITサポーターになった人もいる。ITコーディネーターというわけだ。

しかし「頭数」だった要員は、残念ながら残存が許されなかった。飲食業や製造業の「人手」として転職するほかなかったのは言うまでもない。今回のコロナショックはどうかといえば、受託系ITサービス業における多重下請け構造を考えると、IT要員派遣業(いわゆるSES)では10万人以上、ばあいによっては20万人以上が余剰する。

興味深いのは1人当たり売上高の上昇

これもバブル経済崩壊時の統計だが、興味深いのは1人当たり売上高が上昇していることだ。4年間で事業所と就業者がそれぞれ17%減少し、売上高が1991年の7.1兆円から6.3兆円に11%縮減しているのだが、1人当たり売上高は1459万円から1562万円に、7.1%増加している。

その背景を考えると、次のようなことが浮かび上がる。

 (1)事業所が減少したため、多重下請け構造の階層が一部で短絡化した。

 (2)一定の技術力と就業モラルを持つ要員が残存したため生産性が上がった。

 (3)経費の見直しが進み、手続きが簡素化した。

昨今の受託系ITサービス業は、一部を除けばオール派遣業化して久しい。SIはそもそも「システム・インテグレーション=単純な請負でなく、ユーザーのITを全面的に請負い、継続的な提案を通じてユーザーの事業拡大に資する」が定義だったはずなのに、現在は「ユーザー(ないし元請け)の言うがままにシステムを作り、余計なことは一切しない」が実態だ。

ましてSESとなると、ソフトウェア・エンジニアリング・サービスとは名ばかり、なるほど大規模システム開発では必要だったかもしれないが、工学的アプローチもサービス・デザインもへったくれもありゃぁしない、実態は「コードを記述できる要員(コーダー)の派遣」、悪くいえば「IT土方」のまま放置してきたのではないか。それを「請負」「部分受託」と言い換え、派遣常駐を「出向」という言葉で誤魔化してきた。

新型コロナウイルスは、ユーザー企業にとってはテレワーク/在宅勤務=働き方改革とデジタル化を迫る"黒船"だ。端午の節句のころ、太平の眠りから覚まされた受託系ITサービス業が大慌てで甲冑・槍刀を探し回ることにならないといいのだが。