【ビジネスジャーナル】官僚に行政文書改ざんを「できなく」させる「日本列島イントラネット化」構想

2018年4月25日付「ビジネスジャーナル」掲載の記事です

 

働き方改革」に関連する厚生労働省のデータ偽造(捏造)が発覚したのは2018年の2月だった。続いて3月には森友学園への国有地払い下げに関する決裁文書の改ざんで、当時財務省理財局長だった佐川宣寿国税庁長官が辞任、4月には防衛省における陸上自衛隊イラク派遣部隊日報隠蔽と、次から次に中央官庁の不祥事が表面化している。2017年6月には、加計学園が運営する岡山理科大学獣医学部をめぐる文部科学省の文書隠蔽もあった。

衆目の一致するところ、厚労省安倍内閣へのおもねり、財務省安倍晋三首相夫人の昭恵氏の関与もみ消し、防衛省は「戦闘」状態を否定する政府答弁との整合確保といったことだろう。

加計学園の問題は、国家戦略特区の認定が歪められた疑惑がいまだに根強い。政府・与党は「担当の職員が勝手にやった」と現場に責任を押し付けて幕引きにしたいのかもしれないが、それを強調すれば政府のガバナンスが問われることになる。

さらに3月20日、年金の所得税控除にかかる「扶養親族等申告書」のデータ入力業務が無断で中国の業者に再委託されていたことが判明した。今年1月6日に年金機構は無断での再委託を把握していたが、2月15日に年金の過少給付が発覚していなければ、年金機構は隠蔽を決め込んでいた可能性がある。正しいデータを作成することより、3月26日に予定されていたマイナンバーとの情報連携を優先させたということだ。

無謬原則は都市伝説に近い

原因がなんであれ、官公庁の記録(文書やデータ)が官僚の判断や組織的な工作によって偽造・捏造・改ざん・破棄できる仕組みが継続されれば、同じことが繰り返される。では、政府の文書管理はどうあるべきなのか、万能の策はないにしても、そのポイントを議論する必要はある。

「法律に基づいて仕事をするのだから、間違いはない」という無謬原則は、性善説ないし都市伝説に近い。実態は性悪説に立ったほうがよく、政策立案や施策実施のプロセスに関するメモ、FAX、メール、議事録にいたるまでをデジタルファイルとして保管・保存することを義務付けなければならないだろう。

そこで、「システムに大変な費用がかかる」「ハードウェアが故障したらどうするのか」といった問題が出てくるが、記憶装置の容量はほとんど無限大に拡張し、1ギガバイトの価格は50円以下だ。故障したハードウェアを新品に取り替えるとコストが高くつくので、故障したままにすればいい。

そのうえで、日本国民であればいつでも・誰でも・自由に閲覧できるようにすべきだ。海外に派遣された自衛隊員がどれほど劣悪な状況のなかで、真摯に平和維持活動に取り組んでいるか、日報を通じてありのままの実態を国民が知ることは悪いことではない。また、行政文書を衆人環視の下に置けば、プロセスが透明化され、確定後の捏造や改ざんはできなくなる。
 そのためには、行政職員が日常的に利用する情報端末は、必要最低限のメモリーを備えたシンクライアントにしなければならない。既存のパソコンを使い続ければ、OSと日本語ワープロ表計算ソフト、プレゼン資料作成ツールなどに多額のライセンス・フィーが発生する。その費用の何割かをOSS(オープンソース・ソフトウェア:ソースコードが公開されており誰でも開発と利用拡大に参加できるコンピュータ・プログラム)コミュニティに寄付する代わりに、ライセンス・フリーのソフトを使用したり、開発してもらう。パソコン全台を入れ替える必要はなく、内蔵ハードディスクを外してネットワーク環境を再設定するだけでいい。

 日常業務は部局や支局ごとに設置したサーバーで処理し、プロジェクトの進捗状況に応じて省庁単位のサーバーに収納する。決裁されたプロジェクトにかかる記録(デジタルファイル)は、国の最終サーバーに格納する。ファイルへのアクセスログを監視する仕組みも必要だし、部局・支局、省庁、国の各レイヤのサーバーはブロックチェーンで相互に監視する。データファイルに不正なアクセスや変更が行われたら、一斉に検出アラームが表示される。「階層型分散協調アーキテクチャ」と呼ばれる技術を援用すれば、さして難しい話ではない。

行政と国民のためにデータ倉庫をつくる

1990年代後半、「関東大震災並みの巨大な直下型地震がいつ来てもおかしくない」と喧伝された。そこで関東地方の市町村が、同じメーカーの同じコンピュータを使っている遠隔地の市町村と相互データ保管協定を結んだことがある。コンピュータで処理されるようになった住民や税務、土地に関するデータを相互に預け合って、万が一の災害が発生した場合、バックアップする。のちに米国同時多発テロで脚光を浴びたBCP(Business continuity planning:事業継続計画)の先駆けをなした考え方だ。

政府はその動きを知っていたが、推奨しなかった。というのは、当時の住民基本台帳法は市区町村単位で住民情報を管理し、情報処理会社に業務委託する場合を除いて外部に預託することを禁じていたためだ。2002年、住基ネットの稼働に合わせて住民記録データの預託が条件付きで可能になったが、税務や不動産管理、介護福祉、農政などのデータは市区町村内での管理が続けられた。
 11年3月11日に発生した東日本大震災では、太平洋に面した青森・岩手・宮城・福島の4県41市町村が大きな被害を被った。そのうち岩手県大槌町陸前高田市宮城県南三陸町、女川町、亘理町などは庁舎が津波に襲われ、コンピュータ・システムが破壊されただけでなく、紙で管理されていた各種の台帳が失われた。いくつかの情報は委託先の情報処理会社や住基ネットの地域センターにバックアップされていたが、復元に数カ月を要したケースもあった。「行政サービスのBCPのために、国がデータ倉庫(DWH)を用意してくれないか」という声が少なからずあった。

日本列島イントラネット

一方、「平成の市町村合併」で市町村の数が3234から1740に減少した。市町村の合併は同時に小中学校の廃校と統合を意味していて、文科省によると2002年から11年までに4709校、その後も含めて5000以上の小中学校が廃校となっている。そのなかには、地盤が強固で水力発電所が近くにあり、雪による冷却が可能、何かにつけて地域住民が出入りしているような廃校があるだろう。その校庭に大きな穴を掘って、データセンターを埋設するのだ。

全国のDWHを結ぶイントラネットを構築すれば、どこかのセンターにトラブルが発生したり外部からアタックを受けても、システム全体が停まることはない。インターネットの原型となったアメリカのARPANET(アルパネット)が、1962年のキューバ危機を契機に第3次世界大戦を想定していた際と同じ仕組みだ。行政と国民の情報を守るリダンダンシー(余裕のある、冗長な)ネットワークができあがる。

今後も安倍政権が続くかどうかはともかく、公文書管理法の見直しとセットで、情報公開法の見直しと「日本列島イントラネット化」を検討すべきである。