緊急事態宣言には誰もが納得できるエビデンスと懐の深さが要る

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FNNプライムオンラインから

 詳細な説明がないまま、安倍首相が「全国の公立小中高校の一斉休校」を要請したが、教育の現場から「準備する時間が足りない」「終業・卒業のけじめがつかない」、家庭から「共働き、片親の家庭はどうすればいいのか」といった苦情や疑問が相次いだ。さらには「急落した支持率の回復をねらったパフォーマンス」という厳しい指摘もある。市区町村や家庭だけでなく、企業も商店も、首相の唐突な意向表明に振り回されている。

 続いて3月6日には中国、韓国からの入国について、9日から事実上拒否すると発表した。中国は一定の理解を示しつつも、「規制が必要以上に広がることがないように」と懸念を示し、韓国は日本人入国者に対して同等の措置を取る考えを明らかにした。習近平・中国主席の訪日延期が決まった3時間後に発表されたことに様ざまな憶測が飛び交っている。

 このままだと最短13日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」改正案が成立、緊急事態宣言が可能になる。ただ現状について、政府は緊急事態相当とは判断していない。専門家会議が「ここ1~2週間が瀬戸際」の見解を示した2月24日から起算すると間に合わないという向きもあるが、そもそも疫病対策としての緊急事態とはどのような状況かだ。スペイン風邪(1918~1920年)を想定するなら、感染率5割、死亡率0.7%(当時の総人口5500万人に対して感染者2800万人、死者39万人:1920年の内務省衛生局資料)という数値が得られる。

 これに対して今回の感染率は0.001%、死亡率は0.0001%未満なので、統計的には有意ではない。心臓・血管・呼吸器などに基礎疾患がある高齢者が重症化しやすいといわれるが、乳幼児や児童、妊産婦はどうなのか、健康な成人でも例証が少ないだけではないか、疑念は拭えない。既存の感染症と比べて害毒性が強いのか弱いのか、予防策と治療法がないことによる漠とした不安が先行している。

 安倍首相がリーダーシップを発揮したいなら、緊急事態宣言でなく、専門家の意見に耳を傾け、評価は様ざまあるにせよ、首相として原発事故に直面した菅直人氏を対策会議に招くといった、懐の深さを示す必要がある。独断専行で思いつきのような要請、指示を乱発するとしたら、それは決してリーダーシップの発揮ではない。ただ内外に不安と不信、混乱を広げるだけだ。