JUAS「企業IT動向調査2020」速報値は、2月17日までに第3弾まで公表されている。今回は「ビジネスのデジタル化は分岐点に〜実施レベルを高めていくことが期待以上の成果を得るカギ〜」の副題がついた第2弾を紹介したい。有効回答956社のデジタル化状況を調査したものだ。デジタルトランスフォーメーション(DX)の焦点は、どこに当たっているだろうか。
IT化の目的は依然として「コスト削減」
速報値第1弾の紹介で触れていなかったのは、「IT投資で解決したい経営課題」は何かということだ。グラフから分かるように、やりたいことの1・2・3番目を合わせた総合では、「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」がトップで群を抜いている。
以下、総合2位「迅速な業績把握、情報把握(リアルタイム経営)、第3位「社内コミュニケーションの強化」、第4位「営業力の強化」と続く。これはインプレスWeb担当者フォーラムの記事「国内有力企業のIT予算、注力ジャンルは「業務プロセスの効率化」が断トツの1位【日本情報システムユーザー協会調べ】」が触れている。
真っ先にITを適用したい課題のトップは「業務プロセスの効率化」28.9%、第2位「迅速な業績把握、情報把握」18.4%、第3位「ビジネスモデルの変革」7.9%、第4位「顧客重視の経営」7.0%。
2番目にITを適用したいのは第1位「業務プロセスの効率化」20.7%、第2位「社内コミュニケーションの強化」「業務プロセスのスピードアップ(リードタイム短縮等)」9.0%、第4位「迅速な業績把握、情報把握」8.6%。
3番目のトップは「「業務プロセスの効率化」12.1%、第2位「社内コミュニケーションの強化」11.0%、「迅速な業績把握、情報把握」8.9%、「IT開発・運用のコスト削減」8.6%の順。
それまでは「IT予算」と言っていたのに、ここにきて「IT投資」と言葉が変わっている。読者にあっては予算(経費+投資の見積額)と投資がゴッチャにならないか、懸念されるところではある。速報値とはいえ、予算に占める経費と投資の割合を示してからでないと、調査結果に齟齬をきたす。
総合トップの項目は「プロセス改善」のように見えるのだが、中身はコスト削減であるらしい。3番目の課題に「IT開発・運用のコスト削減」もあがっている。「迅速な業績把握、情報把握」「ビジネスモデルの変革」が総合2位、3位というのは、DX推進がまだホンモノになっていないことを示している。
すごいじゃないか! だが実態はどうだろう
デジタル化状況について集計したのが下のグラフだ(グラフ上が「商品・サービス」、下が「プロセス」)。
これを見ると、全体の4割近くの企業がネット販売やWebによる顧客サービス、6割近くがRPAなどによって手作業を自動化していると理解できる。
また、4割超の企業がIoTやAIを搭載した製品・サービスを提供し、4割近くがAI、ビッグデータ、IoTなどを活用した既存業務の自動化を行っている。
全体の2割がAI、ビッグデータ、IoTなどを活用して初めて成立する商品やサービスを提供し、6%がAI、ビッグデータ、IoTなどを活用した業務革新を実施している。
すごいじゃないか!
だが、どこまで実態を反映しているのか、大いに疑問ではある。
事務系従業員のテレワークすら実施していないのに、こんな数字が出るはずはない。おそらくごくごく一部の業務、商品・サービスについて、有効性の検証=PoC(Proof of Concept)に着手した段階か、実証実験の段階というのが正しいところなのだろう。
——そこはほら、察してくれないと……。
では、実態との乖離がますます大きくなるだけだ。
2割がプロセスのデジタル化を実施中
有効回答956社の商品・サービスのデジタル化とプロセスのデジタル化に関する回答をクロス集計し、見える化したのが下記。エリア内のパーセンテージは全体に占める面積の割合、「未実施」は黒、面積の大きい順でマゼンタ色の濃度を100%、80%、60%、40%、20%、10%、5%、無職で表示した。
956社で最も面積が大きいのは「商品・サービス未実施/プロセス実施中」(面積の構成比19.2%)だった。次いで「両方とも未実施」14.0%、「商品・サービス・未実施/プロセス検討中」17.0%と続く。商品・サービスのデジタル化より、業務プロセスや管理プロセスにデジタル化しやすい部分が少なくないこと、商品・サービスのデジタル化はビジネスモデルの見直し・再構築に結びつくことがあるため未着手のケースが多いことが分かる。
売上高100億円未満、100億円以上1000億円未満の2グループは、よく似た傾向にある。「どちらも未実施」が最大の面積を占め、商品・サービス未実施/プロセス実施中、検討中が続いている。「両方も実施中」が6〜7%にとどまり、「両方とも未実施」は4社に1社となっている。
売上高1000億円を境に「両方とも実施」のウエイトが高くなる。「両方とも実施」の面積が全体に占める割合を見ると、1000億円以上1兆円未満では20.1%、1兆円以上では56.2%となる。