コネクティッド・カー EXPO 2016 へ行ってきた

一目で感じられる「ソフトウェア問題」

 ソフトウェア開発の課題克服のヒントを求めて、『コネクティッド・カー EXPO 2016』へ行ってきた。年明け、ラスベガスやデトロイトの熱さが伝えられているが、東京・有明でも、ビッグサイトの全フロアを埋め尽くす巨大展示会が盛況だった。
 コネクティッド・カー EXPOは広大な会場の半分程度を占めるオートモーティブ ワールドの中央部で、比較的まとまりのある高密度な展示スペースを実現していた。
 話題はずばり、
 (1)自動運転、あるいはその支援、その他の運転制御
 (2)衛星等を用いた位置情報の活用、地図情報の計測・整備と活用
 そして
 (3)カーナビやスマホなどを介した人間系の情報処理およびコミュニケーション系
 ーーだ。
 もちろん、車載の半導体、通信系の話が基盤にある。IoTというキーワードもあるが、モノを車としてしまうと、旧来のテレマティクスそのもので、さしたる新鮮味は感じられない。
 しかし、これらの彩り豊かなアピールをざっと概観すると、これは「ソフトウェア・ネックだなー」ということが見て取れる。 車という素材を媒体として、コンピュータと通信、そして各種のセンサーと豊かなヒューマン・インタフェース系を持ち込めば、実に様々な夢多いサービスを考え、実現することが出来る。が、それは試作機、試作・実証実験までだ。これらを支えるソフトウェアをリーズナブルなコストで、厳格な品質確保のもと、要求にあったスピードで開発し、世界中にデリバリーし、かつ維持管理、保守開発して行くことは至難だ。厳格な品質確保には文字通り命がけの開発と、現下の情勢に適合したセキュリティー確保の課題克服が含まれる。
 まともに考えれば、描かれた夢の多くは、経済的合理性のまえに縮退せざるを得ない。戦闘機や宇宙・国防システムのソフトウェア開発のような方法論を、こうした領域に持ち込むわけにはゆかないだろう。
 目についた展示の一部を紹介したい。

 まずは自動運転。凄い凄い、会場入り口で(株)ZMPの「ロボットカー」が目を引いた。

 東京オリンピックまでに市街地を走る自動運転車を実現するそうだ。車の周囲、運転席上、天井上にセンサー類が張り巡らされていた。情報処理はすべて車の中で完結するとのことだった。
 自動運転を支援するシステムの展示もあった。

 次いで(株)エイチアイの「ヒューマン・インタフェース用テレマティクス製品」。
 
 要するにAndroid上のミドルソフトウェアでダッシュボードほか各種の車載コクピットを開発するプラットフォームを提供する。ソフトウェア開発系や適用支援サービスを含むとのこと。多彩な車載ディスプレイ構築で威力を発揮すると思われるが、車はスマホではないんだから、それなりの課題がありそうだ。

 ドイツからInfineon社(の日本法人)の「車載マイクロコントローラAURIX」を中心にした出展があった。Infineon社の母体はシーメンス社だ。TriCoreとよぶコアプロセッサをもとに制御対象に特化した多彩なマイコンファミリーを提供し、コンパイラーから各種ソフトウェア/ハードウェア開発環境一切合切のいわば車載マイコンの大帝国を構成していた。配布されているパンフレットに、TriCore Tool Partnersという表があった。12の領域に延べ50近いツールのロゴが列挙されている。車載マイコンを中心にこのようなツールとそのベンダー群による、気の遠くなるようないわゆる生態系が構成されていることが覗えた。

 台湾出身のALLION社(の日本法人)が、「車載器機向け品質検証ソリューション」をアピールしていた。

 たとえば、「規格ロゴ認証試験サービス」。実に30種近いロゴが並んでいる。これまた気の遠くなるような話だ。
 「実車走行試験」といったサービス品目もあった。
 ここであえて、配られたアリオン(株)のパンフレットの一節をそのまま引用させて頂く。

 《『従来の「カーナビ」や「カーオーディオ」といった製品の枠組みを越え、クルマとITシステム、そしてユーザーをつなぐハブとなる次世代情報端末−車載機器。スマートフォンとの連携やテレマティックス・サービスといった機能が追加されたことによって、ユーザーは快適な車内環境を享受できる一方、プラットフォームの多様化や、BluetoothやUSBなどのインターフェース規格の発展に伴い、製品設計やエコシステムは複雑化の一途を辿っています。》

 開発現場がIoT時代に要求される環境にすばやく対応できるよう、アリオンは未来の自動車づくりを担う品質検証を提供しています。』
ご指摘の斯界の課題は、まさにおっしゃる通りだ。ALLION社は品質検証だが、現代のクルマ開発の課題は1社2社の手に負える次元ではない。それこそエコシステム全体で前に進めてゆかねば、その発展は壁に阻まれるに違いない。

 そのほかに、目に付いた出展として、「モービルマッピングシステム」「高精度GPS移動計測計」「高精度道路空間データ計測と活用」とか、これを利用した「高精度リアル3Dデータの提案」、あるいは「高精度地図データベース」「国道アーカイブデータ」などがあった。また船舶の領域で圧倒的な古野電気(株)がクルマの世界で「測位&タイミングソリューション」をアピールしていたのが興味深かった。


(神谷芳樹のオフィシャル・エッセイ)