Japan IT Week[春]に「ちょっとだけ」行ってきた

 東京ビッグサイトの巨大展示会、リード エグジビジョン ジャパン(株)主催の『Japan IT Week[春]』は12種の展示会が合体した催しで、その巨大さ、人波に、気力、体力が及ばず、ちょっと垣間見た程度だが、それでも刺激一杯だった。


特別講演の聴講申し込みは4000件も
 展示会は「ソフトウェア開発環境展」「情報セキュリティEXPO」「スマートフォン&モバイルEXPO」「ビッグデータ活用展」「Web&モバイル マーケティングEXPO」「IoT/M2M展」「組み込みシステム開発技術展」「データセンター構築運用展」「通販ソリューション展」「データストレージEXPO」「クラウドコンピューティングEXPO」「ITプロダクツ展」である。
 まずは冒頭の特別講演、これが凄い。IoT/M2M展の企画で、講師はインテル社上席副社長兼IoT事業本部長、タグ デイビス氏とシスコシステムズ(同)専務執行役員 最高技術責任者、戦略事業開発担当兼IoEイノベーションセンター担当、木下剛氏。
 聴講の申し込みが4,000人から寄せられたということで、サテライトのホールに誘導された。もちろん満席。さすがにパソコンやタブレットを拡げている人は少なかったが、多くの人が熱心にメモをとっていた。

ムーアの法則が技術革新を牽引?
 インテルデイビス氏からは、「Internet of Things; It is here, now. 〜IoTによる現在進行形の変革と次のステップ〜」で、産業革命以来の技術革新の波が概観され、目下進行中のIoTという革新は空前のものであるという主張があった。いままで、マイコン革命、パソコン革命、インターネット革命、モバイル革命等々と延々と聞かされ体験してきた者にとっては、相変わらずの印象だが、侮り難い変化が進行しているようではあった。
 なんでも、この領域は年率20%で成長していて、成長率20%以下の企業、組織体はそれ自体がリスクである、という説明だった。いくらなんでも言い過ぎだろうと思ったが、現在のインテル社の勢いに違いない。歴史の概観の中で、「ムーアの法則」が技術革新を牽引したという説明があった。
 これはおかしい。
 ムーアの法則は過去の事例を観察した結果導かれた経験則であって、次の歴史の牽引とは次元が違う話だ。しかしインテル社ではそうではないようだ。ムーアの法則に沿って将来までカーブを描き、これに沿って技術革新、事業展開をすすめて来た、ということだ。つまりムーアの法則は短なる過去の経験則ではなく,将来の指針ということだった。
 多くの分野で一層の生産性向上が課題だが、そのなかでも不足している技能工を補うことにIoTが役立つそうだ。GE社で電気機関車の運転手の退職が進み、若手の補充が難しい中、タブレットを活用した人工知能システムで未熟な若手機関士をサポートし、ベテラン以上の成果を上げた例が紹介された。その他テスラーの自動車が6週間毎にソフトウェアをアップグレードし製品価値を高めてゆく話、Uberのような新しい社会システムが生まれ成長しているはなしなどの紹介があった。
 最後に、「外部世界が変化しているのに内部に反映できない組織は先がない」、といったジャックウェルチの言葉が参照された。インテル社の自信満々の勢いに絶句。

Internet of Everything
 シスコの木下氏からは、「あらゆる物・人・プロセス・データがつながるInternet of Everything(IoE) 〜IoEを活用し、新しいビジネスモデルを創出〜」という題で、IoEを提唱し推進しているというお話があった。従来のIoTはいわば、低層の垂直的な接続を意味していたが、IoEはより上位のデータ、プロセス、アプリケーションまで含めた接続を実現し、さらにこの層で水平的な相互接続を図る概念ということだった。
 IoT World Forumという活動を通して7層の参照モデルを提唱し、クラウドとユーザの間にフォッグ・コンピューティング、あるいはエッジ・コンピューティングというローカル処理の階層を定義していた。また世界的にIoEイノベーションセンターという研究開発拠点を展開し、東京にも拠点を置いているということだった。(調べたら六本木の本社内に昨年開設)

人類の相互理解にどう貢献するのか
 インテル社、シスコ社、ともIoTあるいはIoEという新しい時代を得て元気いっぱいであるが、ちょっと不思議な気持ちにもなった。この大きなムーブメントは雇用の創出ということにはどんな効果があるのだろう。通信だからコミュニケーションの発達に貢献するのだが、人類の相互理解にはどう貢献するのだろうか、と。推測だが、おそらくこれらの課題とは無関係に、猛烈な勢いで産業技術の世界が先へ先へ走って行くに違いないと思った。また、IoTにしろIoEにしろ、従来からのソフトウェアの課題は益々重要になってくると感じた。
 次に展示会、これは気力・体力なければ回れない。ちょっとだけでも刺激になった。はやドイツの風が感じられた。Industry4.0は何が新しいのか分からない、が、実際にドイツ発のセンサー機器をつなぐ通信方式、通信プロトコル、それをサポートしたベーシックなソフトウェアが日本のオートメーション機器メーカに採用されていた。いつものパターンだ。
 英国発のマイクロプロセッサARMは元気いっぱい。ARMというマイクロプロセッサチップが輸入されているわけではない。コア部分のいわばLSI生産用CADデータが半導体メーカに購入されている。これにIO部分を自社設計、追加して、自社の半導体プロセスで1チップマイコンに仕上げ量産する。そのソフトウェア開発環境、試験環境も一つの領域を作っている。
 スイスのコンパイラ企業の日本法人ががんばっていた。機能安全用の検証済みコンパイラの市場があるそうだ。さらにコンパイラの機能安全の検証という市場もある。
 ソフトウェアの検証ということでは第三者検証サービスという市場もある。これも分野が特化されていて、たとえば医療システム用ソフトウェアの第三者検証サービス、という分野があり専門企業が出展していた。7月のIT検証フォーラム2015の案内もあった。
 マイナンバー対応ソリューションという展示があった。「特需でしょう」と言ったら、否定しなかった。
 オフショア開発を薦める国際ゾーンがあった(「もっとオフショア開発宣言!パビリオン」)。ベトナムやミヤンマーからの展示ブースもあり、あちこちで熱心に話し込んでいる人々が見られた。
 全体に様々なノベルティは気前よく配られ、説明の若い人々は自信に溢れ、混雑と共に活気溢れる印象だった。やってる人々は楽しいだろうな、と感じた。