Digital or Die─“DX実現後”の企業・IT部門・エンジニアはどう変わる? (上)

「2030年、ITエンジニアの平均年収が1200万円に!?」サバイブの先に待ち受けるものは

ある日、あなたの会社で品番コードや取引先コードの見直しが始まる。「使っていないコードを廃止し、同じ商品や取引先に付されたコードを統合することになった」という説明と共に、照合する製品や取引先の表記ルールが示される。いわゆる「データの正規化」や「コードの統一」で、その取り組みはデジタルトランスフォーメーション(DX)に踏み出す第一歩ととらえられる重要なものだ。しかし、地道な作業を完遂し、「当社もこれでDXに向かえる」と手放しで喜んでよいかどうか──。“DX実現後”の組織では仕事のしかたがガラリと変わるだけでなく、気がついたら、キャリアを積んだあなたのポジションも、DX時代の若手社員に奪われているかもしれない。

 

DXの入口は「データの正規化」や「コードの統一」から

 「データの正規化」や「コード統一」といったデータマネジメントの取り組みは、本誌読者ならよくご存じだろう(関連記事データマネジメント関連記事一覧)。これらを詳しくない人に説明するとしたら次のようになる。

 同じ会社でありながら、事業部や工場が異なると用語が違い、部品や部材のコードが違うことがある。A工場で「コップ」と呼んでいるモノが、B工場では「グラス」、C工場では「カップ」と、社内で呼び方が違うと、システムは同じモノとして認識できない。結果、調達が一度で済まず、コストを押し上げてしまう。

 また、取引先企業を「(株)○○○○」と書くか、「株式会社○○○○」と書くか。担当者の苗字と名前の間に1文字分の空白を入れるか、入れないか。これらを同じ表記ルールで統一しないと集計の際に手間がかかり、ミスにつながる。

 筆者が「日立製作所が300万件を超えるセグメントのコード統一を完了」という記事を本誌に寄稿したのは2016年3月のことだった(関連記事コード統一だけで終わらない─超巨大企業が推進するIT戦略)。日立が2012年にスタートした「Hitachi Smart Transformation Project」(日立スマトラプロジェクト、図1)の成果であり、その準備があればこそ、2018年8月に「2~3年以内に10万人規模のテレワーク体制を構築する」などとアピールすることができたのだ。

図1:Hitachi Smart Transformation Project(日立スマトラプロジェクト)の位置づけ(出典:日立製作所
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 もちろんテレワークはコード統一だけでは実現しない。会議資料などは紙にプリントアウトせず、PDFにするなどしてメール配信もしくはWebサイトにアップロードしオンラインでアクセスする。TV会議システムを使うことで遠隔地からも参加できる。出勤・退社、残業の管理方法、成果の評価、人事考課の基準、日報や出張申請、必要経費などの手続きについて、すべての発想を変えていかなければならない。

 この領域については、日本マイクロソフトもドラスティックな変革をはたしている。IT記者会Report2018年1月に現代ビジネスに掲載されたレポートで詳しく紹介しているが、ビジネスのスタイルを変え、紙をなくし、フレックスタイム制すら廃止した。勤務時間や勤務場所をフリーにしたら、1人当たり86万ドル(約9600万円:米国系企業なのでこのような表現になる)を叩き出したという話だ(関連記事“儲かる”から確実に成果が出続ける「働き方改革」―日本マイクロソフトの実践

 実際、同社に勤める筆者の知り合いは、普通のサラリーマンがオフィスにいる平日、山梨のブドウ園でワインを作りながら、業務をこなしている。「会社のルールに従って、ミッションを達成する。部門の売上高目標などは自分たちで協議して設定するので、過度な負担はない」という。

製造ラインの自動化は進むも、事務系・営業系が周回遅れ

 日本企業において、製造ラインの自動化(効率化・省人化)についてはそれなりに進んでいる。

 例えば、大阪の大手化学品メーカー、ダイセル網干工場(兵庫県姫路市)ではセンサーを活用し、プラントの稼働状態を遠隔監視・操作できるようにした。属人性が強かった運用ノウハウをITに移植したことで、大規模な工場の運営が3000人から300人になっても回るようになった。人に代わってインテリジェントピグ(Intelligent Pig、図2)が金属パイプの中を移動し、金属の劣化や錆を発見して通報する保守の自動化技術も普及している。

図2:超音波センサーを搭載したピグが配管内部を走行する内視鏡検査技術、インテリジェントピグの活用が始まっている(出典:経済産業省 商務流通保安グループ「スマート化の基本的な考え方とIoT・ビッグデータ等の活用」)

 ところが、事務系・営業系の業務プロセスは相変わらずアナログ(紙と手書き)が前提のところが多い。デジタル化は周回遅れで、生産性は少しも上がっていない。生産性が変わらないのに売上げを増やそうと頑張れば、長時間労働になりノルマがきつくなる。

 そこで「生産性革命」「働き方改革」ということなのだが、ITを利活用しないことには二進も三進もいかない。IoT、AI(人工知能)、RPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務自動化)といった新しい技術が注目されるのはそのためだ。政府の言葉を借りれば「コネクテッド・インダストリーズ」や「第4次産業革命」「Society 5.0」である。