行政手続きから紙とハンコを撤廃できるか(1) IT担当大臣の顔がみえるようになるかな?

2017年12月の「基本方針」がスタートライン

首相官邸が新指針

 12月19日、首相官邸が「デジタル時代の新たなIT政策の方向性について」と題した指針を発表した。IT系メディアには「デジタルトランスフォーメーション」の文字が踊り(筆者もその一翼を担っているが)、来年1月召集の通常国会議員立法(議法)「デジタル化促進法案」、内閣提出(閣法)「デジタルファースト一括法案」が予定されているなど、猫も杓子も「デジタル」一色だ。

 指針は高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)と官民データ活用推進戦略会議(2016年12月施行の官民データ活用推進基本法に基づき官邸に設置)の合同会議が作成したもので、項目ごとに閣僚の役割分担を定めている。「データの安全・安心・品質」「公共・民間部門のデジタル時代への対応の促進」の2点、計9項目で成っており、その内容は次のようだ。

 (1)データの安全・安心・品質

  ・データ流通にかかる国際的な枠組みの構築

  ・個人情報の安全性確保

  ・重要産業のオペレーションデータ管理の強化

  ・ITの政府・公共調達にかかる評価の仕組み

 (2)公共・民間部門のデジタル時代への対応の促進

  ・行政デジタル化の徹底

  ・民間部門におけるデジタル化対応の促進

  ・プラットフォーマーへのルール整備

  ・AI活用(AI-ready)社会の構築

  ・5Gの整備と標準・アーキテクチャの整備

 詳細は https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20181219/siryou.pdf をダウンロードしていただくとして、多くのIT政策ウォッチャー(という言葉があるかどうか定かでないが)にとっては意外でもなんでもなく、というより「またか」というのが正直なところではなかったか。というのは、両組織は昨年の12月にも「行政サービスのデジタル改革断行」を謳った「IT 新戦略の策定に向けた基本方針」をまとめているからだ。

「起草委員会」は不発?

 昨年12月の基本方針で掲げられた「IT新戦略起草委員会(仮称)」がその後どうなったのか、ネット検索では独自スレッドが出てこない。推測するに、おそらくは「とりあえず言ってみました」の構想止まりだったのだろう。

 しかし基本方針は生きていて、今年に入って公表されたeガバメント閣僚会議「デジタル・ガバメント実行計画」(1月)、経産省「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」(9月公表)、公正取引委員会による「メガプラットフォーマー規制方針」(11月:毎日・朝日の報道)などはその一部ないし派生といっていい。

 憶測だが、官民データ活用推進戦略会議が設置された2016年はマイナンバー制度がスタートした年だ。スマートフォンの普及率が70%を超え、クラウド、IoT、AI、ビッグデータの4点セットで「第4次産業革命」が喧伝されていた。利用環境も技術基盤も、IT/ICTが大きく変わりつつあった。マイナンバー制度の開始を機に、国としてのIT戦略の転換を図ったのだろう。

 状況がどんなに変わっても、いちど決めた道路やダムの建設計画が見直されることなく、粛々と継続されるのは「お役所仕事」の弊害だが、ことITに関して珍しく柔軟な対応を見せたことになる。安倍―世耕の蜜月関係を背景に、総務省との連携を強化しつつあった経済産業省が安倍官邸と内閣府に人材を送り込んだ成果かもしれない。

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IT担当大臣の顔がみえるようになるかな?

入管法と水道法を優先

 基本計画に沿って、本来であれば、先に閉会した臨時国会で有志議員提出による概論「デジタル化の促進に関する法律(デジタル化促進法)案」が成立していたはずだった。それを受けて官邸が指針を立て、来年1月の通常国会で内閣による各論「デジタルファースト法案」を可決・成立させる、というストーリーだったが、入管法と水道法の改定を優先する国会運営で手順が前後した、と聞いている。

 ともあれ、これで3月末にまとめられる「IT政策大綱」により詳細な具体策を盛り込む段取りが整った。予算執行は6月以後だが、年度替わりの4月から「できることはどんどん進めていこう」というわけだ。

 次期通常国会に提出される議員立法(議法)「デジタル化促進法案」は、行政手続きのペーパーレス化・電子化と社会・経済の方向性を明文化するという。もっとも今回の官邸指針と重なる部分が多いし、概論と各論がほぼ同時に成立するのは永田町の美学にやや反する。そのような”大人の事情”で、議員立法が見送りになる可能性がないでもない。

 促進法案には、①マイナンバーによる本人認証の適用拡大、②行政手続きにおける添付書類の省略、③民間における契約の電子化、④飲食店や小売店でのキャッシュレス化、⑤デジタル技術を活用した働き方改革の促進、⑥災害対策におけるデジタル技術の活用――などが盛り込まれるといわれている。マイナンバーの活用を掲げるのは、国のIT基盤を否定しないという建前を示した、と理解していい。

一括で関連法を改定

 また内閣が提出する「デジタルファースト一括法案」は、マイナンバー関連法や住民基本台帳法など行政手続きの電子化に関連する法律を一括で改定するものだ。スマートフォンで住民票の変更ができるようにするほか、行政手続きのオンライン化原則、添付書類の撤廃・省略を定め、デジタル技術を利活用した本人確認、ワンスオンリー(手続きに必要な氏名・住所などの登録を一回だけで済ませる)/ワンストップ(一連の手続きを1つのサイトでできるようにする)などが盛り込まれる。

 見事なまでの予定調和だが、「デジタル化促進法案」の中心となったのは自民党IT戦略特命委員会、その委員長だった平井卓也衆院議員が科学技術・IT政策担当大臣として「デジタルファースト法案」を立案したと知れば、議法と閣法の”阿吽の呼吸”が理解できようというものだ。

 平井氏といえば、地元への利益誘導が常態化している国会議員にしては珍しく「脱メインフレーム」論やブロックチェーンの活用を提唱し、IT業界団体の会合に顔を出すほどのIT通で知られている。今回の官邸指針のほぼ全項目を科学技術・IT政策担当大臣が担当することになっているので、平井氏の存在感がより大きくなることは間違いない。われわれはやっと、顔が見えるIT担当大臣と出会うことになるのだろうか。

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