行政手続きから紙とハンコを撤廃できるか(2) 年10万件以上の441手続きに照準

電子政府がうまく進まない理由

行政機関には動機がない

 デジタル技術で社会・経済を根っこから変革していかなければ、労働生産性は向上しないし「一億総活躍」も「働き方改革」は掛け声で終わる。20世紀型のヒエラルキーとルール、プロセスに縛られた現状を放置すれば、世界の潮流に遅れを取る。

 それは衆目の一致するところであって、民間企業は嫌も応もないのだが、行政機関は自主的に変革を推進する動機がない。行政サービスも職員の給与も税金で賄われるし、無謬原則があるためだ。

 しかしそれでは民間が立ち行かなくなる。何ごとにつけ避けて通ることができない行政手続きが、デジタル化で加速したビジネスとの間でスピードのギャップを生み、国際的な競争力を損なうかもしれない。一方、政治状況を見ると、来年10月の消費増税のあと安倍政権の支持率が低下し、一気にレイムダック化しないとも限らない。平井大臣の胸中を推測するに、「やるなら今しかない」といったところだろう。

 振り返ると、電子政府構築プロジェクトが始まったのは2000年、森喜郎首相(当時)の「イット革命」がきっかけだった。小泉内閣の「e-Japan戦略」でブロードバンド・インターネット網の構築、電子カルテ電子商取引(EC)、電子投票、行政サービスの電子化などが示された。目標として掲げられた「5年以内に世界最先端のIT国家」の評価はともかく、電子政府の基盤とされた住基ネット住基カードが行き詰まり、マイナンバーカードの利用も伸び伸び悩んでいる。「イット革命」から足掛け20年、IT戦略本部がようやく行政手続きの簡素化・デジタル化に踏み込んだかたちだ。

「念のため」の無駄

 北との関係で国民に住民登録番号証明書の常時携帯が義務付けている韓国、地図上の国がなくなっても国として国民同胞に均一・平等な行政サービスを提供することを目指すエストニア、貿易の十字路として国際的地位をより高めることを目標とするシンガポールなどがデジガバで先行しているのは理解できる。米国がデジガバに毎年900億ドル(ざっくり10兆円)を投入しているのは、ビッグデータ、AI、次世代通信技術、暗号・セキュリティなどの分野で世界を牛耳る(覇権といってもいいが)ためだ。

 2001年度から累積すれば、日本も電子政府に10兆円以上は投入しているだろうし、IT技術力が諸外国より劣っているとは思えない。にもかかわらず電子政府が進展しない要因として、国民のITリテラシー(活用能力)、ITに対する経営者の無理解・無関心、アナログ利権などが指摘される。それともう一つ、行政機関そのものが制度改革の障害になっているのだ。

 例えば、役所は「何かあったとき」を考えることが常態化し、「念のため」に紙(書類)の提出を求めることになる。デジタル化が進むと仕事がなくなると考える職員、「おカミ」の権威という旧弊、紙とハンコこそが正統な行政手続きという思考も阻害要因だ。ことIT化・デジタル化に関してだが、中央官庁のうち警察、法務、外務、財務など3文字省庁は保守的、経済産業、文部科学、厚生労働、国土交通、農林水産など4文字省庁は改革的な傾向がある。その壁を突破できなければ、「またか」ということになりかねない。

年10万件以上の441手続きに照準

行政手続きは年48.3億円

 ところで、1年間に「行政手続き」がどれほど行われているかを調べると、手続きの種類は4万6,385種、件数は48億3,227万件だという(昨年8月現在:2018年3月公表「行政手続等の棚卸結果」)。そのうち法令で「ネット処理可」とされているのは5,944種類(12.8%)で35億2,786万件(73.0%)、ネット化が禁じられているのは3,169種類(6.8%)で1億4,881万件(3.1%)だ。

 この数字を鵜呑みにすると、行政手続きの7割以上がすでにネットで処理されていることになるので、わざわざ法律を定める必要はない、というのが一般の受け止めに違いない。ところが「ネット処理化」とされている手続きでも、実際には多くが紙で行われている。例えば確定申告は「ネット処理可」だが、2,197.7万件のうち完全なペーパーレスは763.8万件(21.1%)に過ぎない。

 次に年間の件数ベースで見ると、100万件以上の手続きは179種(0.4%)で46億7,857万件(96.8%)、10万件以上は401種(0.9%)で1億1,727万件(2.4%)だ。このうち現物性(手帳や免状、資格証明書など書面の掲示)や申請者の出頭・対面を要するものが139件ある。「ネット処理可」で年間手続き件数が10万件以上の441手続きについて、デジタル・ファーストを徹底すれば、行政手続きのデジタル化は一気に進む。ネットでも書類の送付でもOKとするダブルスタンダードが行政の現場に混乱を生み、職員の疲弊につながっている。

 また馴染みのある手続きのネット処理率は、「登記」にかかる5手続き(不動産登記、法人登記など)は2億2,026万件のうち1億5,072万件(68.4%)、「国税」(所得税申告、給与所得源泉徴収票、不動産売買等の手数料など)にかかる15手続きは3,245万件のうち1,956万件(60.1%)、「社会保険・労働保険」にかかる32手続きは1億5,886万件のうち1,876万件(11.8%)などとなっている。年金にかかる諸手続きのネット処理率が極端に低い。

「ネット処理可」でも書類

 共通しているのは、申請・申告はネットでできるが、実際の手続きには紙の書類を提出しなければならないことだ。個人であれ法人であれ、申請書に住民票や領収書などを添付し、署名・捺印をして提出しなければならない。逆に見れば、本人確認が電子的に認証され、添付書類を省略できるようにする。それが行政手続きのデジタル化ということだ。

 「行政手続等の棚卸結果」でもう一つ明らかになっているのは、申請時に書類を添付する規定だ。ここでいう書類とは、住民票、戸籍、商業法人・不動産の登記事項証明書、印鑑登録証明書、所得・納税証明書、定款、決算書、各種の資格証明書などを指す。

 調査によると、申請時に書類を添付するよう規定している法律は、累計で717本だ。個人の手続き申請で住民票の添付を求める法律が33本、戸籍は16本、印鑑証明書が2本、法人の場合は定款が255本、決算書が209本、各種の資格証明書が122本、登記事項証明書が61本という具合だ。

 法律以外にも書類添付を規定する定めがある。政省令・規則、通達・ガイドラインなどだ。政省令・規則は5,420本と法律の約7.5倍、通達・ガイドライン・その他は3.5倍の2,523本となっている。実務を運営しているうちに、法律を補うためであったり「念のため」に書類の添付を求める規定が現場ごとに作られ、見直されないまま現在にいたっている。

 地方公共団体が独自に定めている条例もあって、「官僚の無謬」を原則とするこの国の行政手続きは、申請者に自らを証明する書類を添付して申請するよう、ガンジガラメになっている。国民もガンジガラメだが、役人もガンジガラメだ。この縛りから行政手続きを解放しない限り、電子政府・電子行政は実現しない。

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