2つの技術史展示館を訪ねて(2)

 まず案内されたのは、「富士通アーカイブス」という施設。かなり広いフロアを使って富士通の全歴史が展望できる。

 そのスタートで驚いた。

 な、な、なんとそれはあの古河市兵衛の胸像写真で始まる。これは知っている。ちょっと前に追った渋沢栄一の生涯に感動的に登場する人物だ。FUJITSUのFUは古河市兵衛のイニシャル、先日、日本橋コレド室町でちょんまげ頭の胸像を拝んだばかりだ。そしてその隣、2代目社長の古河潤吉の写真と伝記。潤吉は陸奥宗光の息子、古河家に養子に入った。3代目は市兵衛の実子にして潤吉の養子、古河虎之助だ。ここも写真と分厚い伝記が展示されている。あの人気の旧古河庭園、旧古河邸のオーナーだった稀代の美男。その夫人は西郷従道の娘、古河邸は陸奥宗光の屋敷あとだ。
 今日、世界の最先端を走るハイテク企業、富士通の歴史は、実に江戸時代の商人の活動にはじまり、倒幕運動、明治、大正と日本の歴史を彩ったいわば歴史的人物群によって牽引されてきた。シリコンバレー企業、アジア新興国企業とのなんたるコントラストだろう。
 その後、古河鉱業の時代、そして鉱毒事件、財閥の時代、戦争の時代、さらに戦後、などなど幾多の苦難を経て今日に至る。その製品体系、企業活動が途中から爆発的展開をしているのが強く感じられた。 

 古河市兵衛陸奥宗光西郷従道、いずれも文字通り銅像を仰ぎ見る歴史上の人物だ。
 陸奥宗光、その偉大な功績を表現する巨大な銅像は外務省の玄関横に有り、毎朝ここに登庁する人々を見下ろしている。西郷従道はあの西郷隆盛実弟、上野の西郷さんの銅像の顔は実は従道のものとも言われている。
 古河市兵衛が歴史に登場するのは、実に幕末、薩長ほか新政府軍が東行する時期に遡る。維新の達成には、武力、人心の他に莫大な軍資金の獲得が鍵となった。兵站あっての革命だ。この維新勢力に底なしの資金を献納したのが江戸時代に富を貯えた商人組織、三井組と小野組である。この小野組の幹部に、たたき上げの古河市兵衛がいた。彼らはこの変革期に新政府に賭け、その賭けに勝ったのち、明治政府の作る我が国初めての銀行、実質的に中央銀行を兼ねた第一国立銀行の中核となった。国立銀行の名ではあるが国法に基づく民営銀行である。このあたり、NHKの人気朝ドラ「あさが来た」で描かれた世界である。
 さらに歴史は進んで、この第一国立銀行の運営が乱脈を極めるようになり特に小野組系の振る舞いがひどかった。武家や志士崩れの官僚の作る明治政府はこの意外な展開に驚き、渋沢栄一などの協力を得て粛正に乗りだし、小野組を壊滅させた。この小野組の店じまいにあたって想定外の事が起きた。小野組は可能な限りの財産を差し出し、日本の産業界の連鎖倒産を防ぐ事に協力、江戸時代の遺風をもつ商人だが、最後に公を重んじるサムライぶりを見せた。
 そしてもう一つ、小野組で金融以外の部門を切り回していた幹部の古河市兵衛は全財産を小野組に預け、これを放棄、文字通り裸一貫で組を去ったという事である。これが渋沢栄一に深い印象を残し、のちに古河市兵衛が鉱山事業を始めたときに惜しみない支援をした。これが古河鉱業になり、古河財閥に発展したということである[2]。
 さらにさらに歴史は進んで、鉱山事業から展開して電気関連の事業が起き、古河電気工業が生まれ、されにこれとドイツ、ジーメンスSiemensとの合弁会社富士通信機製造が作られた。この社名が、実は古河のFUとジーメンスの日本語音のJIを繋いでFUJI通信機として誕生していた。こうして今やグローバル・メジャー・ブランドに育ったFUJISTUの中に古河市兵衛のイニシャルが埋め込まれることになった。

 [2]神谷芳樹:(続)絶句、青淵、あまりにも偉大な(2)
津本陽「小説 渋沢栄一」を読んで〜《兜町から》、IT記者会Report、2015年2月


 いまや人気の旧古河庭園の旧古河邸で、これぞ美男美女という古河虎之助夫妻の写真を仰ぐことが出来る。ジョサイア・コンドルの手になる特異な洋風建築、旧古河邸の見学で、1階に隠されている和室と、そのまた地下を見れるが、その床の間下には頑丈な基礎が築かれている。かつて床の間に置かれていた鉱山王、古河市兵衛銅像の重量を支えるためだったそうだ。
 「富士通アーカイブス」は、社員の幅広い協力を得て、その声を汲みながら常時アップデートされているということである。富士通の社史が富士通信機製造からではなく、古河市兵衛から始まる、ここに富士通を支える人々の心意気が現れている気がした。
おそらくこの展示には多くの富士通の重要な顧客が案内されている事だろう。それは必然的に我が国を支える社会的に重要な人々を含み、この展示にはそれらの人々に富士通という組織体がアピールしたい強いメッセージが塗り込められているように見えた。

  • (本文中、歴史的人物、社会的組織の敬称を略させて頂きました)
  • (謝辞:施設をご案内頂いた富士通沼津工場に謝意を表します)

(神谷芳樹のオフィシャル・エッセイ)

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