人の情と思いやり

 何年も海外駐在を続けていた日本人の友達が任期を終え、昨日日本に戻ってきたが、瀋陽の住まいを出る前にメールを送ってくれた。「空港まで職場の何人かが送ってくれるらしい。こういうところは中国人の良いところですね」と。

 改革開放が始まってから30年になった。外国とのコミュニケーションが深まると共に、中国人の欠点はよく指摘される。「無責任感」、「他人への思い遣りが足りない」等、確かに欠点である。筆者は同じ中国人としてしみじみと感じ、恥ずかしく思っている。
 職場では、ミス等が発生したら、すぐ自分のせいではないと主張する。難しい事に遭ったら、部下や他人に押し付ける。確かにこういったような自分の利益だけを計算する人がいる。
 同時に、人情の温かさに救われたことがある。

 筆者の母が亡くなった時、近所のおばさん達が肉親でもないのに、お通夜のためにわざわざ仕事を休んでまで手伝ってくれた。父の時も、同じ町と隣の町の電気工さん(父の職業は電気工だった)何十人が家まで来てくれた。筆者にとってはまったく知らない人たちだが、言葉がなくても深く慰められた。
 大学を卒業してからずっと、筆者は上海に住んでいた。上海市民は冷たいとよく言われる。確かに嫌な人が沢山いた。しかし、両親以外最も感謝すべき人――大学のクラスメート・陸さんの両親――も上海市民である。
 3年前、ひどいアレルギーになり、熱が出て、痒くて一晩中も眠れなかった。翌朝陸さんのお母さんに電話で話をしたら、すぐ迎えに来て、病院まで連れていってくれた。点滴する間も、ずっと立つまま付き添ってくれた。去年油断し指を切った時も何回もレバー(漢方薬では、レバーは血を養う効果がある)を買って料理してくれたり、数え切れないほどいろいろと愛情を注いでくれた。「親以上」と筆者の親戚たちからいつも感心されている。

 伝統からみると、人情を重んじることは中国人の素性である。肉親だと「兄弟如手足」(兄弟姉妹の仲は手足の如く)、近所付合いだと「遠親不如近隣」(遠方にいる親類よりも近隣にいる他人の方が頼りになる)、友達だと「天涯若比隣、海内存知己」(天の果ても隣のように、世界にいる限り知己が必ず存在する)という言葉がある。
 陸さんのお母さんの話に戻るが、実は普段近所とあまり付き合わないタイプだ。友達のお母さんでなければ、たぶん冷たい人だと思うだろう。しかし、何か困った事があったら、できる限り助けてくれる。
 「他人との距離を保たず、他人の生活習慣を尊重しない」というのも中国人の欠点である。人の情と尊重とのバランスを取りながら、他人への思い遣りをするのは理想的だと思う。