春節と過年

 本題に入る前に、中国の暦について少し説明させて頂く。
 現在、世界中の国々はグレゴリオ暦が現行暦として広く使われている。中国ではグレゴリオ暦の事を「陽暦」或いは「公暦」と呼ばれ、会計年度等の仕事場で使われている。一方、グレゴリオ暦の前に使われた暦を「旧暦」、「陰暦」、「農暦」、「夏暦」と呼ばれている。伝統の祭りは旧暦で祝うのが普通である。


 エピソードだが、中国では誕生日を旧暦で表す習慣がある。ただし新暦を使う人も混在していて、単に日付を聞いただけではどちらかわからないことがある。
 春節は中国ではもっとも重要な祭りである。旧暦正月初一、即ち旧正月の初日のことである。毎年変わるが、時間的にはグレゴリオ暦の1月下旬から2月中旬頃。昔は正月初一のことを元旦と言われていたが、新中国成立の際にグレゴリオ暦を採用する同時に、新暦の1月1日を元旦、旧暦の正月初一を春節とすることになった。
 春節は「過年」とも表現され混同されているが、民間の習慣では「過年」は旧暦十二月(腊月)二十三日の祭灶から旧暦お正月十五日の元宵節までの期間を示すものである。
 旧暦十二月二十三日から除夕(大晦日)までの一週間を「迎春日」と呼ばれ、大掃除したり、買物をしたり、一人ずつ新しい服を準備したりする。ドアに春聯(迎春の対聯)や逆さの「福」を、窓に「窓花(切り絵)」を貼ったりするもある。 

 除夕は俗称「団欒夜」で、なるべくその日は家族が一緒に過ごしたい一心で、海外の華僑を含め、中華圏の大移動になっている。中国国内では交通機関の受容力が原因で、2週間前から家々へ帰る人も結構いる。王維の詩には「独在異郷為異客、毎逢佳節倍思親」(独りで他郷にいてあくまでも客だけで、佳節に逢う毎に親類が愛しくなる)が書いてあるように、家へ帰る過程はけっこう辛いかもしれないが、やはり帰らないといけない心理である。
前述した「過年」の20日間で、大事な事(掃除と買物を除く)をおおざっぱに分けてみると、下記の5種類がある。

 ◯腊祭
 年末年始に腊祭を行い先祖や衆神への祭祀が行われ、合わせて豊作を祈念することが一般的に行われる。
 例えば、旧暦十二月二十三日の祭灶だと、「灶君」というキッチンを管理する神様への祭祀である。ちなみに、その日は「小年」とも言われる。この「小年」に対し、春節は「大年」で、民間では大晦日の事を「大年夜」と呼ばれる。
 大晦日は先祖への祭祀で、魯迅先生の文章『祝福』に書いてあるように、「過年」の期間中に一番重要な祭祀である。
年始は、商売繁盛等の一年の順調のために、車を運転する人は車の神様、船を操縦する人は船の神様、職業別それぞれに祭祀が行われる。


 ◯墓参り
 春節、朝一やるべき事は家で蝋燭に火を点し、料理を持っていて先祖の墓へ行くこと。


 ◯爆竹及び花火
 大晦日の夜に爆竹と花火を打ち上げる事はよく知られると思うが、実際の所、田舎では「過年」の20日間の間うるさい程毎日打ち上げられる。


 ◯拝年と親類回り
 親類回りの際、年配者に対して長寿を祝う言葉を述べ、その後近隣住民や知人と春節を祝う言葉を述べ合うものがある。同時に、年配者は子供にお年玉を上げるのも慣例である。


 ◯お正月料理
 一般的に鶏(吉と同音)や魚(余と同音)を食べるとされる。それに、北方では餃子が知られており、南方では年糕(お餅)もしくは元宵(湯円)を食べる習慣がある。

 しかし、広大な中国の中では地方により春節及び過年のやり方が大きく異なる。筆者の出身地紹興と母の実家余姚は同じ浙江省で、距離的には1時間しか離れないが、春節では紹興の人々が年糕を食べるが、向こうが元宵を食べる。同じ省でも違いがあるので、中国全土だとどれくらい違ってくるだろう。
 しかも、中国には55の少数民族が存在する。上記春節漢民族春節であるが、満民族や内モンゴル、白民族、壮民族にも自分なりの春節を過ごす習慣がある。
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