「コンビニで住民票」オープニングセレモニーに行ってきた

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 2月2日に行われた「セブン-イレブン店舗で住民票の写しと印鑑登録証明書が手に入るサービス開始」のオープニングセレモニー兼記者会見に行ってきたので、実況中継風に。

 このセレモニー兼会見は、セブン-イレブンがセットしたもの。一方の当事者である総務省や財団法人地方自治情報センター(LASDEC)は、今回は脇役に回ることになっていたので、声がかかったのは流通・小売関係の記者が中心でした。主要なテレビキー局がずらりとカメラを構えていたのは、さすがセブン-イレブン。

 わたしには、総務省―LASDECのルートで声がかかりました。住民基本台帳ネットワーク、LGWANの企画推進者で、現在はLASDEC理事長である小室裕一氏の配慮であったろうと推察しています。

 記憶に新しいように、当日は前夜からの雪でした。会場となった東京・渋谷のセブン-イレブン渋谷上原二丁目店は、井の頭線駒場東大前」駅から徒歩で10分強の閑静な住宅街の中にあります。午前9時、雪は止んでいて、歩道はみぞれ状態。こういう日のために用意のブーツを履いていったので、滑る心配はありません。

 さて、発表の内容は次のようになっています(以下原文)。

 

住民基本台帳カード住基カード)を利用して ~

『住民票の写し』『印鑑登録証明書』がセブン-イレブン店舗で取得できます

渋谷区、三鷹市市川市の一部店舗でサービス開始

株式会社セブン-イレブン・ジャパン(東京都千代田区代表取締役社長 最高執行責任

者(COO):井阪隆一)は、2010 年2 月2 日より、東京都渋谷区、三鷹市、千葉県市川市の一部のセブン-イレブン店舗にて、住民基本台帳カード住基カード)を利用して店内設置の新型マルチコピー機(富士ゼロックス株式会社製)から『住民票の写し』『印鑑登録証明書』を発行する行政サービスを開始いたします。

                 記

  1. セブン-イレブンでの『住民票の写し』『印鑑登録証明書』発行サービスの特長

(1)便利: 夜間や休日でも身近なセブン-イレブン店舗で取得できます

(2)簡単: 簡単な操作で取得できます

(3)安心: 専用ネットワークと高度なセキュリティで個人情報を保護します

≪高度な偽造・改ざん対策≫

①けん制文字(コピーすると「複写」のけん制文字が現れる)

②改ざん防止(証明書データを暗号化したスクランブル画像を

付けることで真偽確認が可能)

③偽造防止(偽造防止検出画像を付けることで真偽確認が可能)

  1. スケジュール

◆2 月2 日 先行参加自治体の東京都渋谷区、三鷹市、千葉県市川市の計7 店舗にて試験的にサービス開始

◎渋谷区(渋谷上原2 丁目店、渋谷広尾5 丁目店、渋谷宇田川町北店)

三鷹市三鷹駅南通り店、三鷹新川6 丁目店)

市川市行徳駅前店、市川大野4 丁目店)

*渋谷区の1 店舗が加わり、当初予定の6 店舗から7 店舗と変更となりました

◆3 月1 日 利用可能店舗を関東1 都6 県、山梨県福島県(約5,900 店)に拡大

◆5 月中 利用可能店舗を38 都道府県のセブン-イレブン全店(約12,600 店)に拡大

*2010 年春の段階では、上記先行参加3 自治体にお住まいで住基カードをお持ちの方が利用可能となります。以降、参加自治体は順次増加する見込みです。

  1. ご利用時間/交付手数料 ※交付手数料は自治体毎に異なります。

◆6 時30 分~23 時〔年末年始(12/29~1/3)を除く〕

◆渋谷区 250 円(『住民票の写し』『印鑑登録証明書』とも) 三鷹市 200 円(同上) 市川市 250 円(同上)

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「コンビニで住民票」のテープカット=東京・代々木上原

 セレモニーは関係企業、団体のトップが報道陣の前で挨拶とテープカットを行うだけの簡単なものでした=写真:左からLASDEC小室理事長、三鷹市・清原慶子市長、セブン-イレブン・井阪隆一社長、総務省大臣官房・佐村知子審議官、セブン-イレブン渋谷上原二丁目店・津曲勇一オーナー、渋谷区・桑原敏武区長、市川市・大久保博市長、富士ゼロックス・山本忠人社長=。

 セブン-イレブンの店頭で入手できるのは、住民票の写しと印鑑登録証明で、手続きするには住民基本台帳カード住基カード)が必要となっています。住基カードは住民登録している全成人の3%程度にしか普及していないので、総務省とLASDECは今回のコンビニでの証明書発行が同カード普及の弾みになることを期待しているわけです。また富士ゼロックスは専用の複合機をセブン-イレブン全店に設置できる可能性があるわけですし、セブン-イレブンにとっては集客につながる。さらに住民から見ると、自分が住んでいる市町村の役場や出張所に足を運ばないでいい。4者4様にメリットがあることになります。

 ITを利活用した官民連携による住民目線の新しいサービスを、「行政のバリューチェーン」と呼ぶようになってきました。わたしが昨年参加していた中央府省を中心とする電子政府CIO百人委員会でも、大きなテーマとなっていました。これまでは行政機関の手続きと民間事業者のサービスが明確に線引きされていて、住民(消費者)に負担を強いることが少なくなかった。ネットワークをつなげば、官民連携は簡単に実現するではないか、と。

 例えば、引越し。引越しをするとき、住民(消費者)は運送会社に荷物の運び出しと運送を依頼し、電気・ガス・水道・新聞、電話といった月極精算の公共サービスの停止と移転先での開通を手配します。それと住民票の移転を届出るわけですが、転出・転入届だけでは済みません。国民健康保険、お子さんの義務教育、お年寄りの介護サービス、各種の税手続き等々が付随します。官民連携ができれば、運送会社を手配するのと一緒に、様ざまな手続きが可能になります。

 お隣の韓国では、このようなサービスはずっと前に実現していました。一定額以上の買い物をすると、買い物をした人の情報と領収書の情報が税務署に送信されるので、確定申告のとき領収書を添付する必要がありません。携帯電話を購入したとき、市中銀行に行って電子決済用のICチップを埋め込んでもらわないと、使えないようになっている。電子決済の機能が標準なので、携帯電話で地下鉄の改札を出入りでき、利用料金は銀行口座から引き落とされる。つまり携帯電話に電子マネーを入れる必要もない。済洲島の住民がソウルの街角で住民票を入手することも可能です。

 なぜ、それが日本でなかなか実現しなかったかというと、行政と民間事業者を仕切る壁があるからでした。行政機関のコンピュータ・システムを、民間事業者のコンピュータ・システムとダイレクトに接続することは、法律で禁止されています。国民の生命・財産を保証するのが行政機関の基本的な役割ですから、当然ではありますが、弾力的な運営ができていなかった。同じお役所の中ですら、厳密にいえば、システム間連携はご法度なのです。住民基本台帳ネットワークとLGWANは、その突破口となるはずでした。

 ところが、もう一つの大きな壁がありました。行政機関が発行する各種証明書は、当該機関の職員立会いのもとで交付する、という原則があるためです。発行する証明書の種類によっては、当該行政職員が関係省庁から業務を委嘱されていることにしなければならず、窓口に立つ公共職員はいくつも委嘱状を持っている。笑い話のようですが、本当に起こっていることなのです。

 今回、セブン-イレブンの店頭で住民票の写しと印鑑登録証明書が入手できるようになったのは、LASDECという国の機関に順ずる組織がクッションとなって、市町村―都道府県―LASDEC―セブン-イレブンというネットワーク接続を可能にしたことに拠っています。このサービスに参加する市町村は、住民1人当たり約100円の業務委託費をLASDECに支払い、LASDECがセブン-イレブンの端末(富士ゼロックス複合機)からの要請に基づいて証明書データを送信する。つまり市町村のコンピュータ・システムは、民間事業者のシステムとダイレクトにつながっていない。住民は行政キオスク端末を自分で操作するのであって、セブン-イレブンの店員が交付するわけではない――という理論が成立するわけです。

 「ここまで来るのに15年かかりました」とLASDECの小室理事長。

 「住民票そのものをなくすのが、真の電子行政システムだと思ってますが」とわたしが言うと、「いきなりは無理でしょう」の返事でした。

 でも皆さん、よく考えてみてください。住民票の写しや印鑑登録証明書は、どのような用途で必要でしょうか。多くは行政手続きのためじゃありませんか? だったら行政機関の間で確認してくれれば済む話じゃないか、とわたしは思います。行政機関のために、なぜ自分が自分であることを証明する書類の運び屋にならなければならないのでしょう。自分の時間を使い、手数料まで払って。

 それと同じことが運転免許証にも当てはまります。自分が自動車を運転する資格を有しているかどうかが分かれば、免許証を携行する必要はないですよね? だってSuicaicocaは、どこから乗車し、どこで下車したかのデータで乗車賃を精算しているんですよね。切符を持っているかどうかが重要だとしたら、通勤・通学の人はみんな不正をしていることになってしまう。免許証不携行で罰金+減点なんて、おかしいじゃないですか。

 ま、この話は別の機会でするとして、NHKは「特定の民間企業の宣伝になる」と考えたからか、当日夜のニュースでは放送していませんでした。セブン-イレブンの宣伝になるというとらえ方でなく、電子行政システムに風穴が空いたという切り口が思いつかなかったのかもしれません。